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レターパッド ~現実編~  作者: 天才受験生 アメロバロベ
ネフィアに入る前
4/5

第一章以前の現実 パート5

第五の旅「到着と視界」


 その後僕らは和気藹々としたムードで祖父の家へ辿り着いた。高校生とは話題が何とも尽きないものだ。



 門の鍵を開けて庭へと足を踏み入れた時、まず僕と隼人以外は辺りを埋め尽くす大量のガラクタに驚いていた。祖父の歴史がここに残っているようだ。


「天野、あんたのお爺さんってどんな人だったの…?」

 この光景を見て驚いているのだろう。ガラクタを突っつきながら風咲は聞いてきた。まぁ、ある程度しか分からないので、あまり詳しくは自分でも言えない。分かってることは、

「んーっとねぇ、何か昔は天才科学者とか呼ばれてたって自慢してたけど、本当にただモノ作りが好きな年寄りだよ。その自慢話もお酒飲んでる時だったしね」

 そう言うと風咲は、木のボールのようなものを抱えながら、

「人生楽しんでそうねぇ、お爺さん」

 と、笑顔で言ってくれた。身内を褒められるのは案外嬉しい。それが亡き人であってもだ。

「うん、凄く楽しんでたと思う」


 僕らが色々手づかみにしていると、隼人が、

「にしても、ガキの頃から増えてくの見てきたけど、流石に増えすぎだろこれ」

 と、言ってきた。確かに、以前見た時よりも増えている気がした。僕らが遊びに行く度に何かしら作っていたため、当然といえば当然だが。


「お、俺でも用途が思いつかないものがこんなに…」

 瑛君は何故か自分に失望していた。用途が分からないのが悔しいのだろう。むしろ祖父はおかしいから、分からないほうが正常だ。


「わー、空を飛んじゃいそうな船の模型もあるね!」

 明日見さんは船?飛空挺だろうか、それを手に持っている。お、落とさないでね…?

「滑り台に竹馬にシーソー。こうやって考えっと俺らのために作ったんだろうって物がわんさかだな」

 隼人は一人で小さなシーソーに乗っていた。見た目は背の高さもあってキモイ。

「そうだね、他は良く分からないオブジェとかそんなのばっかりだし、僕らに扱えそうなものが殆どだ」

「でもでもでも!見てこれ!弓矢とかある。センスいいねぇ」

 風咲は弓と矢を手に取りテンションが上がっていた。


(それは確か…)


「そんなのも爺ちゃんが作ってたなぁ」

「あー、あの時、俺らが光ってる種見つけた時だったよなそれ。なかなか飛ぶんだぜ」

「へー、いいねぇ。後で少し使ってみよーかな。」

 風咲は器用に弓と矢を手で弄んぶ。


「ね、ねえちゃん天野君。あのすごく大きな木が例の木なの?」

 周りの新鮮に心惹かれていた僕らの目へと、本来の目的が指さされた。

「あー、そうだよ明日見さん!いやぁ三年前来た時よりもさらに大きくなってるなぁ」


 僕らは祖父の家の屋根を軽々と見下ろし、緑の髪をふんだんになびかせる例の木をまじまじと見た。


「こんなに大きいと本当に何かあるかもねぇ。うちちょっと今テンション上がりそうかも」

「探ってみっか?」


 風咲と隼人の提案で木の周辺を調べてみると瑛君が何かを見つけたみたいだ。


「うおっ!?なんだこれは?」

 凄く驚いている声だ。

「?」

「どーした瑛?俺にも見せろよ」

「なぁ皆、この木の後ろ大きな穴があるぞ。人が普通に入れそうだな…、どこかに繋がってるかもしれない」

 瑛君に言われたとおり、隼人に付いていき、木の後ろに回ってみると、ぽっかりと広い空洞があった。


「なにこれ!切り抜かれたみたい!!」

 風咲が大きな穴の縁を触っている。

「お、大きいね。私より普通に」

 明日見さんちょっと小さいもんなぁ。


「こりゃあ良いな。正、入っちまおうぜ」

 隼人も風咲のすぐ隣にいた。怖いもの知らずかあんたらは。


「だが、大きいとは言っても五人一気には入るとは思えないな」

 確かに明日見さんよりは大きいけど、瑛君の言うとおり皆で入るには入口が窮屈そうだ。


「んー、じゃあ別れて順番に入るか?」

 隼人はだいぶワクワクしている。

「でも一人は怖いなぁ」

 明日見さんは少し不安そうだ。


 鮮やかな緑の葉で着飾った大木の背中にある広大な謎。きっと彼女だけでなくここにいる誰もが心の中の好奇心と恐怖心とで綱引きをしているのであろう。僕だけかもだけど。


「じゃあうち入ってみるね!」


 勇気ある彼女を称えようではないか。絶対神経おかしぃよ。物怖じしなさ過ぎでしょ。風咲が穴へと足を踏み入れていく。


「待て待て、俺も行くから焦んなよ」

「来るなら早くしてよ隼人。一番乗りはうちだからね」

「へーいへい」

 身体をウズウズさせる風咲に対して、隼人のテキトーな返事が返っていく。

「よし、じゃあ二人が入ったら次は俺たち三人だな」

「え?どうして三人??」


(僕と明日見さんが小さいからだろうな)


「一人残すのな悲しいだろ?」

「はっ!なるほど!!優しいんだね導衆君」

「まぁな」

 瑛君は得意げに眼鏡を触る。腹黒眼鏡と命名してやろうかな。


「それじゃあ気をつけてね、隼人も風咲も」

「そーだよ!水希ちゃん、気をつけてね」

 二人は振り返ると、

「任せなって。早く追ってきてよね」

「何か発見したら俺の手柄な」

 なんてニヤニヤしながら言った。更に隼人は、色々使い道を考えているような事をぶつぶつ言っている。どうやら見つかるものはお金の予定らしい。


「もう隼人、良いからさっさと行くよ」

「へいへーい」

 軽い言い合いのような事をしながらも、二人は穴へと消えていった。

 

(大丈夫かなぁ…)


第六の旅「アイスクリームインザダーク」


 木の中に入ってみると、そこは真っ暗な暗闇だった。足場はしっかりしている部分はしっかりしているが。メシメシっという嫌な音もするため、もしかしたらこの地面は木なのかもしれない。


「うわぁ、本当に何にも見えない…」

「おーい、ゆっくりな、ゆっくり」

「分かってるわよ。隼人も滑ったりしちゃダメよ」

「懐中電灯欲しかったなぁ」

「そうねぇ、まぁぼちぼち行きましょ」


 そう言い風咲はまた一歩下へと足を下ろした。そして、その一歩は宙へと浮いた。


「へ?」


 その瞬間彼女の身体は無限にも続いていそうな、漫画にもよくあるような異次元色めいた道をまっすぐに落下していく。


「え、ちょ、は!?」

「水希!お前どこ行った!?」

「滑る!滑ってるるるるるる」

 水希は腕をバタバタさせ、何か掴めないかとジタバタするが、どうやら何もない。ツルツルだ。

「待っとけ!俺も降りるから!!」

「やばいやばいやばいやばい、これはマジで死んじゃうってえええええ」

「そーっと、そーっおっとおおおおおあおおおおおおお」

 彼らの悲鳴は後ろにも前にも鳴り響いた。


-外-


「うおおおおおおおおおおお」

 どこからか声が響いてくる。


「…え?今何か聞こえたよね」

「あぁ、穴の奥か?」

「そ、それって水希ちゃん達に何かあったってことじゃ」

「何かあったのかな」

「かもな」


 少し穴の先へ顔を入れ、大きな声で叫んでみた。

「おーい、隼人ー?風咲ー?返事しろー」

 だが、返事はさっぱり帰ってこない。


「ど、どうする?」

「どうしたらいいんだろう」

「どうしたものかな」

 三人は顔を見合わせた。

「やっぱこれ、何かあったよね…?」

「叫んでたからな」

 二人がどうなっているのか、全くもって検討がつかない。


「…入ってみる?」

「うん!そうしよう!」

 明日見さんは少し、というかだいぶ焦っているというか、あたふたしている。瑛君はまだ冷静だ。

「入ってみるか」

 そうは言ったものの瑛君の前にいる二人とも、足を動かさずにいた。


 明日見さんはずっと入る動作を見せてはまた固まり、見せてはまた固まりだ。後ろからその光景を見る瑛君の視線が痛く刺さってきている気がする。


「早くしないと二人とも大変な事になってるよね」

「うん、水希ちゃん暗いの苦手なんだ」

「じゃあ早く行かないとな」

 口だけはペラペラと動く。もちろん足は動かない。


「いやー、でも暗そうだね」

「このまま中に入るのは危なそうだよね!」

「怪我したりなんてしても大変だ」

「怪我は痛いからしちゃ駄目だよね」

 明日見さんはそうだよ!というような表情を作り、

「んー、そうだ!懐中電灯取ってこようか!そしたら明るくなるよね」

 と言った。

「流石明日見さん。ナイスアイディアだよ。そうと決まれば家の中に取りに行こっ」

「良いから早く行くぞおおおおお」

 瑛君は僕らの背中を押しそのまま穴の中へと僕らは入っていった。


「とっとっとっとっと落ちるるる」

「導衆君!?落ちちゃうよおおお」

「助けるにはこれしかないだろ!手遅れになってたらどうるんだ!!」

 瑛君はとってもお怒りだった。

「確かにそうだけどって、うお!?うおおおおおおお」

「二人とも?え、ここ滑っ、きゃああああああああああ」

「あ…。あああああああああああああああ」


 僕らの身体は滑り抜群の穴を転げ落ちていく。


「ちょ、痛い痛い!」

「待って、ス、スカートが、滑らないでえええええ」

「なるほど、これで叫んでたのか」

「冷静に分析してる場合じゃないって!!」

「こういうのは焦ったら駄目らしいぞ」

「それ誰の言葉!?これは流石に焦るよ!!」

「水希が言っていた」

「滅茶苦茶じゃないかああああああああああ」


 大声で騒いでいたら、気づけば僕らは黒い視界を抜けて七色に輝く空間を滑り落ちていた。







 世界ってのは本当にシンプルだ。


 だって一つしかないんだから。


 初めから分かっていた事だ。


 この自分たちの生きる世界が単一で、それ以外のみんなが描く理想郷や桃源郷なんてものは、想像の世界で大事に育むものだって。


 そんな自分の考えを裏切るように、見た事もない。なのに何故か、頭の片隅で誰もが期待していた世界が、おとぎ話のような光景が目の前に広がっていた。

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