8話
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今回のダンジョンはティカから話を聞く限り、出来たばかり。出来たばかりだと言う事は、初心者向け。レオが言うには違法ダンジョンは出現して直ぐに討伐した方が良いと‥‥、って、違法ダンジョン?
「なぁ、違法ダンジョンって何だ?」
「簡単に言うとー、迷宮ギルドに許可取らず営業してるダンジョンって事かなー?だから違法ー」
「へぇー‥‥え!?この世界って、ダンジョン公認なのか?」
「色々あるけどぉ、簡単に言うとそうだよー」
へぇ、珍しい。大体のゲームはダンジョンは魔王が作り出した悪、だとか言う設定が多いからな。ダンジョンの管轄はこの間疑問に思った迷宮ギルドで、細々した事はあるが申請に通過すれば誰でもダンジョン主になれるらしい。
今回はその申請をせず、人に危害を加える可能性が高い違法ダンジョンの攻略が仕事。俺は光源として見ているだけだと思うが‥。
「ツグミ、一応攻撃系の魔法陣も用意しといてー?出来たばっかのダンジョンだけど、いちおー」
「分かった」
村の敷地から出て、柵に囲われた放牧地に出る。暫く歩いて居ると、真っ暗な口を開けた穴、腰掛けてうつらうつらして居るめぇちゃんが見えて来た。ハッと起きためぇちゃんは相も変わらず、俺に興味津々。
腰にめぇちゃんを纏わり付かせながら、ダンジョンの中を覗く。目を凝らせば微かに下へ降る階段が見え、不思議さに首を捻る。
「ダンジョンは別空間って感じだからねー、ライトの魔法陣用意してー。めぇちゃんは歳だから、ここでお留守番ねー?」
レオの言葉に俺は、メモ帳からライトの魔法陣が書かれた部分を切り取る。何となくだけど、稀にレオの説明は雑になるな。ゲームや小説を熟知した俺だから分かるけど。そしてめぇちゃん、意外に歳だったのか‥。分かる訳ない。
こくり、小さく頷いためぇちゃんは俺達が来た時と同じく座る。それを見届け、レオが真っ暗なダンジョンの中に入って行くので、慌てて俺も着いて行く。
「じゃ、ダンジョン攻略開始するよー」
レオの暢気な声にピィッ!と何故かクイナが返事。階段を降りきればダンジョンに良くある松明も無いので正に闇、近くに居る筈のレオすら見えない暗闇。
えー‥、確か心で唱えても口で唱えても大丈夫だった筈。流石に25歳の俺が言うと、中二病を発症したみたいで嫌なので心の中で唱えさせて貰おう。
【安寧もたらす暖かな恵みを此処に】因みに女神に捧げる祝詞部分がコレで、自分で考えるから恥ずかしくて仕方無かったりする。
「おぉ」
言い終わった途端、魔法陣から淡い光が漏れ出し、魔法陣から手のひら程の発光球体がポンッと音を立てて現れた。レオが言うには紙が魔力に耐え切れなくなるか、俺が止めるまで発動して居るらしい。
俺の周りでふよふよと漂う光球【ライト】、術者に追尾するからこれを持って行くのが俺の仕事だ。
「明るー。これなら安心だー。改めてぇ、出発ー」
そしてまたレオの声に俺では無く、クイナがピィ!と鳴き声を上げる。まぁ良いけど。ダンジョンの中はオーソドックスな土壁、松明は無いのでライトの光が届かない場所は真っ暗。
俺とレオが並んで通れる少し広めな通路で、天井は3メートルくらいか?魔物はまだ出現せず、ただ長いだけの通路を歩く。
「魔物出て来ないな。出て来られても困るけど‥」
「気配はするよー。んー‥‥多分、串型のダンジョンだねぇー」
「串型ダンジョンって事は、沢山部屋造って待ってんのか。羊も探さなきゃいけないのに‥‥」
「んー‥、pt無いからそんなに無いと思うよー。違法ダンジョンだし、出来たばっかだしー?」
「あ、そっか」
一本道の途中、部屋を何個も造って魔物を置く。進む度に侵入者の体力も削れる串型ダンジョンは、初心者ダンジョンマスターなら1度はやる、かも知れない方法。でも造ったばかりなら直ぐ探索を終え、羊も探せるかも知れない。
「1つ目の部屋にとーちゃく。大丈夫だとは思うけど、気を付けてねぇー」
10分程歩いて居ると、ただ広いだけの場所へ辿り着く。すらりと細身の剣を抜きながら軽い口調でレオが言うんだけど、生憎俺はまだ幼体のクイナと数枚の魔法陣しか無い。
本当にヤバいなら連れて来ないだろう。でも何かあった時の為、手にしたメモ帳から指定した目標を攻撃する魔法陣、火矢【ファイヤーアロー】を切り取る。
「スライムだよー。pt消費も最下位だし、水辺があるなら勝手に増える。pt少ない時なら、1番最初に召喚する魔物だねー」
ぞろぞろ団体で現れたのは、30㎝程の半透明なスライム。弱点は真ん中に鎮座するスライムの核で、レオが片手間と言わんばかりに剣を振るいながら喋る。
何故だかクイナもやる気満々な様で俺の肩から降り、スライムに戦いを挑みに行ってしまった。倍も大きなスライムに体当たりされても気にした様子は無く、逆に体当たりして倒す。
「ん?これ何だ?」
懐中電灯係りの俺は言っちゃ悪いけど、暇を持て余している。不意に足元に転がってきた丸い球体を摘まみ上げ、光球に透かして観察。大きさは5㎝程度。スライムの核だと気付くのは数分後だったりする。
スライムが落としたアイテム、スライムの核は3つ。20匹程居たから、余り倒しても落とさないのか‥‥。核はメッセンジャーバックの中へと放り込む。
「ツグミ、クイナ一杯スライム倒してたし、Lv上がったかもよー?」
「Lv、あるのか‥」
スライムを倒し終えるとクイナを摘まみ肩に乗せ、歩き出す。レオは剣を帯剣する事は無く、しっかりと利き手に握られている。へらへらしているが、多分辺りの警戒は怠ってない。
異世界の不思議に苦笑しながらギルドカードを取り出し、言われた通り押す。順序的には、調教の祝福をタッチ→3つある魔法陣の中、クイナの名前をタッチ→出し入れの次にステータスがあるからタッチ。
【個体】クイナ(幼体)
【種族】黒金スライム
【レベル】Lv2
【装備】なし
【スキル】体当たり、new硬化
【ステータス】
HP180・MP4
STR11・VIT46
DEX9・INT3
【主】九重鶫
《硬化→VITを一定時間2倍にする防御技》
お、1上がった。それにしても、体力と防御力が高過ぎだろう。その分、他のステータスがちょっと低い感じだけど。暫く歩くと次の部屋。脇道は無く、一本道なので楽だ。体力の少ない俺にとって助かる。
「ここも外れか。次はゴブリン、下から2番目にpt消費が低い魔物だねー」
次の部屋は少々鼻をつく臭いと共に、獣染みた声が聞こえてきた。明かりに照らされた魔物の姿は正にゴブリン。身長は俺の腰辺り、身体の色は緑でボロ布を纏っている。武器はこん棒とは言えない木の棒。
スライムに比べて数は圧倒的に少なく、5匹。レオが言うには次がボス部屋か、ダンジョンマスターの部屋らしい。流石に早すぎじゃないだろうか?羊も居ないし、どうなる事やら。
「ちょっと待っててねぇ。これなら5分も掛かんないからさー」
そう言ってレオが剣を構えれば、たじろいだ様にゴブリンが後退る。ギルドカードを見せて貰った訳じゃないが、絶対上位の冒険者だ。詳しくは無いけど絶対普通の冒険者じゃない。何故か確信が持てた。
‥‥と言ってる間にも、レオはゴブリン達を片付けた様だ。霧散し、消え行くゴブリン達を見ながらホッと一息吐く。確かに血は出ない、少し安心した。
「ツグミ、だいじょーぶ?ちょっと休憩するー?」
「ん?いや、大丈夫だ。結構平気な自分が居る」
「ならいーけどさー」
「ほら、羊探すぞ」
「はいよー」
俺の一息を勘違いしたのか、情けなく眉を八の字にしたレオが顔を覗き込んでくる。それに笑顔で返事をすれば、何時も通りへらっとした笑みになるレオ。
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