6話
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祝福とは、やっぱり良くやるゲームのスキルと解釈して良さそうだ。MPの無い俺が何をするのか、と言うと空間の魔法陣を練習してギルドカードに書き込み、このスライムを入れる。
要するに、カードに塒を作ってスライムを突っ込むって事だ。半分くらいしか理解出来てないけど。因みに快適な空間になるから、住み心地は良い様子。2人は簡単だと言うが、俺に出来るのだろうか‥?
「これが空間の魔法陣だよぉ。意味が理解出来れば簡単に出来るから、早速練習しちゃおー?」
「むぅ、ヒヨに理解は無理なのです‥」
円陣は世界、円陣周りの文字は女神へ捧げる祝詞、円の中にスライムが住みやすくなる様に水と土、光と風の古代文字を書く。それを丸く囲み循環させる為、線で真っ直ぐに繋ぐ。
古代文字とやらが難しい。漸く歪にならず書ける様になったのは、1時間程度経った後。メッセンジャーバックに突っ込んでいたメモ帳で練習したから、丸だらけ。だけどこれでスライムの塒は確保出来た。
「なぁスライムよ、お前、外堀が埋められてるけど良いのかー?」
魔法陣は良いとして、調教の祝福はどうすれば良いんだ?機嫌が良さそうなスライムをつつき、魔法陣の意味が分からず仕切りに首を捻るヒヨを見ながら小さく呟く。確かに義務教育が無いこの世界で、理解するのは難しいよな。
「後はー、このスライムにツグミが名前をつければ無事に終わりだよー」
部屋の奥から持って来た教本をペラペラ捲りながら、レオは至極簡単に言う。ちょっと待て、大事な事を言って無いだろう!調教の祝福について詳しく説明を迫れば、初めて見るレオの困った様な顔。
「何て言えば良いのかなぁ?持ってるだけで効果があるんだ。嫌だったらそのスライム逃げてるよぉ。逃げないのは調教成功してる、って説明で大丈夫ー?」
「まぁ、何となく。要するに魔法陣がアクティブスキル、調教がパッシブスキルって事だな」
「?」
通じない、だと‥っ!それはそれとして置いといて、名前は後回しにしよう。ギルドカードに魔法陣を書き込む事にした。調教の祝福にタッチ、3分割されたパネルが開いたらその内の1つにもう1回タッチ。そして書ける物なら何でも良いので、ペンで書き込む。
スライムの名前が決まりスライムも了承すれば、魔法陣の真ん中にある空白の部分にスライムの名前が入る‥‥らしい。画面がなんで3分割なのか、理由は今の俺が仲間に出来る魔物の最大数。世も末だ。
「つぐ、スライムがつぐの荷物食べてるのです」
「あ、俺の携帯食料!」
常識の違いに唸って居ると、ヒヨが俺のバックを見ながら指摘する。慌てて見ればスライムが張り付き、携帯食料が入った箱を取り込もうとしていた。もしかして、食べ足りないのか?
「ちょ、ビニール食べても美味しくないだろう?ちょっと退いて、ほらさっきの食べ掛けやるから」
「つぐ、これは異世界の食べ物なのです?」
「そうだよ。ご飯が食べられない時に栄養補給として手軽に食べるやつで‥‥、はい、2人共どうぞ」
「わぁー、ありがとー‥‥って、うまっ!こっちの携帯食料って言ったら堅パンだけど、これ食べたら堅パン食べられないねー」
「!! 甘くて美味しいのですっ!」
摘まんでスライムを引き剥がし、出会った時の食べ掛けを渡せば直ぐ飛び付いて包み込む。そう言えば小腹が空いたな、と他の携帯食料を出せばキラキラと表情を輝かせたヒヨ。
今度買い物に行ったら何かヒヨにお土産を買おうと思いつつ、携帯食料を3人と1匹で分ける。
2人が携帯食料に絶賛の声を上げるのを傍目に、俺はもそもそ食べながらスライムの名前を考える。スラりんとか?‥‥何か、悪いスライムじゃないとか言い出しそうだから却下。やっぱり、家族と同じで鳥の名前でも付けるか。
とは言っても、大した候補がある訳でも無いから簡単に、だけど。オウサマクイナからクイナ。小さい雛の頃は真っ黒な毛並みを持つとされている鳥だ。
「なぁ、スライム。お前の事をクイナって呼んでも良いか?」
じわじわ体内に吸収されていく食料を見ながら、俺は答えを求める様につつく。ピィッ!と鳴いてくれたんだけど、これは肯定なのか否定なのか分からん。ギルドカードの魔法陣を見れば、日本語で真ん中にクイナと書かれていた。
「お、名前入った」
「おめでとなのです!クイナはつぐの家族になったのですよ!」
「おめでとー。俺からのお祝いに、その魔法陣の教本あげるよー」
「え、え?あ、有難う」
「いいえー。もう俺は使わないからねぇー」
手放しで一緒に喜んでくれるのは凄く嬉しい。因みに魔法陣の教本はレオので、十代の頃に買った物らしい。魔の祝福を持って居るが剣の祝福の方が自分に合ってるし、難しいのは面倒で魔法も少し使えるからくれるのだそう。有難い。
教本は厳かな図書館にある様なハードカバー。やっぱり紙は貴重品なのかと聞けば、洗って繰り返し使える羊皮紙と和紙、わら半紙があるからそれ程では無いとの事。異世界交流あるみたいだし、伝わっていてもおかしくは無いか。
ピロロロ、ピロロロ。
「なっ、何なのです!」
「あぁ、ごめん。携帯のメールだわ」
メモ帳にレオ指導の元魔法陣の練習をして居ると、不意にバックから聞き慣れた電子音が聞こえてくる。書き損じの裏にお絵描きしていたヒヨが驚き、慌てた様に辺りを見渡す。ヒヨに謝りながら携帯を取り出せば、妹からのメール。
【to.雲雀】
【sub.おにぃちゃんへ】
【やっほー、つぐ兄起きてる?(。・w・。)?今日はみーちゃんの所にお呼ばれしたから、ひぃちゃんと一緒にみーちゃん家にお泊まりするね?寂しいと思うけど、明日は帰るよ(*'ー'*)
PS.みーちゃんとは飯田美紗ちゃんの事です。鶲】
雲雀、もう少し用件を正確に伝えてくれ。そして鶲は抜け目無し、偉いぞ。飯田さん家は両親が転勤する前から家族ぐるみで交流してるし、安心だな。美紗ちゃんが家に来るのも良くある事。迷惑掛けるなよ、と簡単に書いて送信完了。
「何か急用?」
「いや、妹達が友達の家に泊まるって連絡だよ。両親仕事で遠くに居るし、無断外泊は駄目‥‥ん?」
「では、つぐは今日家に帰っても1人なのです?」
「そうだけど、んん?」
「おー、だったらさぁー‥、ってどうしたの?」
あれ、何で基地局無いのに携帯繋がるんだ?これを異世界七不思議に認定しよう。きっと、俺が考えても仕方無いだろうからね。
「‥‥地球の常識に囚われるなって事だな、うん」
「あ、ある程度は囚われてねー?それで、今日なんだけどさー」
「つぐは今日ここに泊まると良いのですよ!いえ、泊まるのです!」
「え、でも悪い‥」
「良いじゃんー?家帰っても1人ならさー。部屋余ってるしー、暇なお兄さん達の相手してよー」
家に帰っても双子が居なきゃ適当に夕飯作って終わりだし、仕事も無いから何もする事が無い。日本人の性なのか無駄な遠慮精神を発動するも、その効果は全く見受けられない。
鮮やかな2人の連携により、俺はお泊まりする事になった。どうやら凄く楽しんでいるらしく、用意する為に一旦帰るの事すら止められ、俺は着の身着のまま。俺も楽しみではある。
「部屋は冒険者のがあるしー、食べ物はアデーレさんトコで買えば良いしー、服は俺の貸すし?」
「ティリア村は月に1度、冒険者が来れば良い方なのですよ。週に1度か2度、外に家畜が逃げたから捕まえて欲しいとギルドに依頼が来るだけなのです。面白い事に目がないのです」
「な、成程ね。じ、じゃあ、遠慮無く、喜んで泊まらせて貰うよ」
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