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4話


良く異世界小説にある地球の技術を持ち込むヤツ、やってみたいよなぁ。他の世界の人間が良く来るなら余り意味無いかもだけど、向こうの技術力に合わせて何かを作って行商みたいな事もしてみたい。



「ねぇつぐ兄ぃ、お腹空いたよぉー」


「つぐ兄、炒飯焦げる」



双子の声にハッと意識を取り戻し、手元の炒飯に視線を向ける。焦げてはおらず、美味しそうな香ばしい匂いをして居るので大丈夫。帰ったあと荷物は自分の部屋に置き、リビングに行けば腹ペコの双子にせっつかれる様に夕飯を作る。


双子は一回り年下の13歳、因みに2人とも妹。両親は共に43歳、俺は18の時の子供だ。父親が単身赴任に行こうとした時、ボロボロな生活能力を心配した母親が着いて行った。在宅の仕事だからって、俺に任せ過ぎな気がする。


右に髪を結ってるのが雲雀(ヒバリ)、快活な性格で食いしん坊。左に髪を結ってるのが(ヒタキ)、しっかりした性格で大の辛党。一卵性の双子なので顔は同じだが、性格や話し方が全く違うので見分けは簡単。



「良し出来た。雲雀、鶲、これ運んで食べるぞ」


「「はーい」」



今日の夕飯は玉ねぎを刻んでいれた炒飯、キャベツとソーセージのコンソメスープ、小皿程度のサラダ。時間掛けられなかったから有り合わせだな、反省。次からは気を付けよう。



「そう言えばつぐ兄、今日学校の帰り、斑鳩(イカルガ)さんと会った」


「ケーキ食べさせて貰ったよ。凄い美味しかった」


「あぁ‥‥、は?」


「今度、スペインに行ってフラメンコ習うって。意気込んでた」



アイツは人の妹を唆して何してるんだ?てか、やる事なす事に脈絡が無いな。1つだけ言えるなら、ヤツの行動力は無限大。明日アイツの家に押し掛けようと思ってたんだが、もう日本に居る可能性は皆無。呆れる程の有言実行者だ。


夕飯を食べ終わったら片付けと皿洗いは妹達、いつも自発的にやってくれる。この年齢に有りがちな反抗期が全く来ないので、親代わりの俺は助かってる。そう言えば俺も無かった気が‥‥、うん無いな。



「仲良くテレビも良いけど、宿題やって、風呂入ってから寝ろよ?」



調べ物をしたいのでテレビにかじりついている双子に声を掛け、自室へ向かう。洗濯物は無いし、戸締まりはした、俺が寝る時に最終確認をするし、何より鶲がいるから大丈夫か。


自室に入れば備え付けのパソコンに向かい、電源を入れる。革命を起こさない程度の情報収集をしよう。やはり、調味料系か?リングタイプのメモ帳を手繰り寄せ、ペンを持ち適当に調べて書いて行く。マヨネーズ、醤油、塩、砂糖、胡椒、さくふわ唐揚げ‥‥。


ちょっと脱線して来た頃、遠慮がちに扉がノックされる。許可すれば直ぐ扉が開き、顔を覗かせたのは雲雀だった。お願いか?



「えへへ。今平気?」


「平気だけど、鶲は?」


「ひぃちゃんはお風呂だよー。あのね、お小遣いちょーだい?」


「また買い食いか?」


「うぅっ」



雲雀が甘えた声を出してねだるのはお小遣い。財布を握るのは実質的に俺だし、使いたかったら俺に申告しないといけない訳だ。妹達は女の子だから、俺の買えない必要経費は除く。詳しくも聞かない。


鶲は月始めにあげたお小遣いで遣り繰りするのが上手だが、雲雀は夕飯まで待てずに買い食いをするから足らなくなる様子。かと言って太る訳でも無く、まぁ運動部だからなのかも知れないけれど。



「編みぐるみの手芸代ってのもあるけど‥」


「けど?」


「うぅ、買い食いしてお小遣い無くなっちゃった。だって三角屋のコロッケ美味しいんだもん!」



確かに美味い、買い物に行けば必ず買うくらいに美味い。雲雀の編みぐるみは上手だし毛糸も高い、俺は財布をバックから取り出し2千円を取り出すと雲雀に渡す。因みに、俺は後で家計簿付けたりもする。母さん五月蝿いし。



「そう言えば聞きたかったんだけど、つぐ兄ぃってアクセ着ける様になったの?珍しいよねぇ」



雲雀にお小遣いを渡すとキョトン、とした表情を浮かべて首を傾げる。そう言えば銀細工の鍵と南京錠、財布代わりの指輪を外し忘れてた。この家に居る時は外しとこう、妹達巻き込みたく無い。何ともまぁ自分勝手な理由だけど。


誤魔化す様に笑いながらアイツから貰ったんだよ、と言えば納得する雲雀。素直なのは良い事だ。その分、鶲がしっかりしてる。逆に鶲には余り誤魔化しが効かない。気を付けないと。



「有り難う、つぐ兄ぃ。これで部活と趣味に没頭出来るよぉー」


「‥‥程々にな?」


「分かってるよ。勉強はちょっと苦手だけど、部活は良い成績残せると思う!」


「勉強も頑張れ。鶲に頼って無理そうだったら、俺いるからな?少し鶲より厳しいと思うけど」


「は、はーい。そろそろひぃちゃんがお風呂から出ると思うから、私リビングに帰るね!」



俺の返事を待たず、そそくさと雲雀は帰って行った。飴と鞭の使い方は分かってるんだけど、慕ってくれてる妹達に強く言えない俺は立派なシスコンと言われても仕方無い。


雲雀が出て行った方を眺めながら、俺はヤツから貰った鍵を触る。一体、何の為にアイツはこれを俺に渡したんだ?今となっては分からず仕舞い。これなら引き留めていれば良かった。


さて、と俺はまたパソコンに向き直る。明日は水曜日。妹達が休みなのは土日だけだし、部活の試合とか用事があるなら前もって言う様に言い聞かせてるから、多分何も無い。仕事も暫くはスケジュールを入れて無い。明日も行こうか?



「服も悩み所だ。レオが着てたのを参考にして‥」



普通に着てた服で目立ったのだから、どうにかしないと。ティリア村は長閑だが、大きな街とか行ったら絡まれそうだ。いや、行くとは限らないけれども。


服を選んで居る途中、俺は不意に気付く。俺の世界はこの地球なのに、向こうの事ばかり考えて居る事に。有り得ない事態が楽しいのも分かるけど、可愛い妹達が居る現実を疎かにしてはいけない。溜め息を吐き、俺はパソコンの電源を落とすと鍵、指輪を外す。そして部屋の電気を消し、雲雀の居るリビングへ。



「‥‥‥雲雀、お前このノート真っ白だけど?」


「!! つ、つぐ兄ぃ」


「宿題、やろうか」


「‥‥‥うん」



リビングへ行けば、テレビにかじり付いて居る雲雀。ふとテーブルに視線を落とすと、何も書かれて居ないノートが目に入る。鶲のノートを覗けば、きちんと終わらせてあった。‥‥九重家の夜は長い。主に自らの自業自得のせいで。


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