3話
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麻袋にお金を入れて貰い、メッセンジャーバックに突っ込む。ギルドカードを手に取り眺めて居ると、レオとヒヨが懐から同じ物を取り出して口を開く。
「ギルドカード何だけどぉ、念話って言うのがあるんだー。地球で言うなら電話?ってヤツー」
「ヒ、ヒヨも持ってるのですよ!」
「無料だしねー」
「べ、便利‥!」
カードの裏面を指でなぞり、誰かのカードと擦り合わせると何時でも念話が出来るらしい。簡単に言うと携帯の無料版らしい、何ともハイテクな機能だ!剣と魔法の世界は凄いな。レオとヒヨもギルドカードを持って居たので、俺は喜んで交換させて貰った。
使うには裏面をなぞり、開いたパネルからその人の名前をタッチするだけで良い様子。初回無料だから大体の人はカードを持って居るらしく、仲良くなったらどんどん交換しよう。
「んー‥、後はこれくらいかなー?銀行に行ってぇ、財布代わりの指輪作って貰えば良いよー」
「財布代わりの指輪?」
「銀行に行くと、1万Mでお金を収納する魔法陣が書き込まれた指輪が貰えるのです。支払いも出来るので、持ってると凄く便利なのですよ。ヒヨも行けば、ヒヨは真実の祝福持ちなので直ぐ貰えるのです」
ヒヨがある意味チートキャラな気がしてなら無い。店番をしてるレオに別れを告げ、ヒヨと一緒にギルドの隣にある銀行へ直行。結果としては、何の疑いも無しに直ぐ貰えた。ヒヨちゃん流石です。
指輪は細身のシルバーリングで、中央に淡く色付いた小さな石が鎮座して居る。上限額は1000万Mで、お金が無くなったら銀行で入金しないといけない。1000万M以上から金庫が作れるらしい。
「忘れてたけど、これ鍵に使うのです。レオが言ってたのですよ、鍵を持った異世界人は鍵穴が無いと帰れないと。だからギルドは無料配布してるのです」
「おぉ、有難う。何から何まで本当に助かる」
「良い出会いだったのです。いつでも念話すると良いのですよ、パパの故郷の話も聞きたいのです」
「え、お父さんの故郷って地球なの?な、名前からして日本っぽいとは思ってたけど‥‥」
「はいなのです。パパは忙しいけど、ツグと会えたらきっと喜ぶのですよ」
この世界は凄いな。意外に狭いと言うべきか、何と言えば良いのか。ヒヨと別れ、有難く南京錠擬きを鍵の鎖に通して首に下げる。これでいつでも帰れる様になった。ホッとする。
ここに来て余り時間も経って無いし、ティカとの約束もある。俺は直ぐ近くにある協会へ向かう。教会の中はテレビで良く見る物と同じで、良く十字架とかマリア像が置かれた場所には、背中から羽根の生えた柔らかい表情を浮かべる美しい石像がある。多分、女神エミエールだろう。
「こんにちは、旅の方。今日は如何なさいました?」
これまた良く見るシスター服を着た、とても優しそうな女性が話し掛けて来た。向こうとは違い、十字架は無いけれど控え目な装飾品が彼女を飾り、それがとても良く似合って居る。
祝福について、自分も貰えるのか、素人丸出しの問い掛けに対しても懇切丁寧に答えてくれた。
先ず祝福について。祝福とは即ち、女神エミエールに貰った個人スキル。ヒヨを例に出すが、彼女は真実の祝福持ち。つまり本物と偽物を真偽眼によって見極められるスキルを持って居ると言う訳だ。ヒヨは1つしか祝福を持って居なかったけど年齢を重ねれば増える場合もある、らしい。
自分も貰えるのか、と言う問いに対して答えは是。余程、殺人犯等の人で無ければ貰える様だ。貰った祝福は己を鍛える事によって強化する事も可、ゲームで言うLvup的な?
「あー‥、女神エミエール様エミエール様、宜しければ異世界人の俺にも祝福を頂けると幸いです」
《ふふ、許可しましょう。貴方にもこの世界に住まう者と同等の祝福を》
説明を聞き終わり、シスターにお礼を言うと石像の前へ行く事を勧められる。石像には生命の大樹(枝)が埋め込まれており、女神とのアポ無し会話が出来る様だ。‥‥女神働き過ぎ。
ギルドカードをバックから取り出し、新しく更新された祝福欄を見ると、何か沢山の物が増えていた。この世界の人と同等の祝福って言って居たし、俺の歳ならこんな物なのか‥‥?
【冒険・商人ギルドカード】
【ギルドランク】0−0
【名】ツグミ・ココノエ
【性別】男
【年齢】25
【出身】地球・日本(異)
【加護】女神の加護
【祝福】魔・調合・商人・宝石・料理・調教
魔の祝福=魔法・魔術・魔法陣が使える様になる。
調合の祝福=物を組み合わせて薬を作る、薬師が必須の祝福。
商人の祝福=商人に便利な契約魔法が使える様になる祝福。
宝石の祝福=宝石商に便利な鑑定が出来る祝福。
料理の祝福=料理が上手になる祝福。料理が上手な人は絶対貰えるらしい。
調教の祝福=魔物と心を通わす事が出来る様になる祝福。
シスターに祝福の説明を受けて居ると、思いっ切り扉を開いた。そこには息を切らせたティカが居り、直ぐシスターに怒られる。一通りシスターに怒られ終わった後、ティカに連れられてアデーレさんが居た広間の様な場所へ。時間も経って居たので、店を閉めて帰ってしまった様だ。
「引き止めてごめんなさい、ツグミ。でも私、話が聞きたくて‥」
「いや、大丈夫だよ。いつでも帰れる様に南京錠貰ったし。ティカ、何の話が聞きたい?」
「そうねぇ、ツグミの世界は羊って居る?後、どう言う暮らしをして居るの?それから‥‥」
「ティカ、落ち着いて!話せる範囲で話すから、羊は居るよ。二回りくらい小さいかな?後は‥」
俺の話は随分と新鮮な様で、瞳をキラキラ輝かせたティカにどんどん問い掛けられる。中には俺の知識が及ばず答えられ無い物もあるが、大体が他愛もない世間話だったから良かった。どうして引き止めてまで話を聞きたかったかと言うと、異世界だけじゃ無く他の村や町に行った事が無いから。この世界は割りと安全だが、魔物や盗賊、亜人や奴隷など危険も沢山ある。
村人は危険を冒してまで必要以上、村の外に出ないそうだ。憧れってヤツ?だから色んな話が聞けるだろう、と俺に目を付けた訳。
「ティカ、時間は大丈夫なのか?少し日が傾いて来たけど‥‥」
「いけない、お母さんに洗濯物取り込めって言われてたんだった!ツグミは?ツグミは大丈夫?」
「大丈夫だよ。そろそろ帰ろうと思ってたからね」
「そう。今日は本当に有難う、ツグミ。また話せたら良いわね」
結構話し込んで居たらしく、日差しが傾き掛けて来て居る。それを問えばハッとした表情と共にティカがこちらを心配そうに見て、問い掛けてきた。時間は大丈夫だって言ったのに、ティカは本当に好い子。
ギルドカードを持って居たので交換し、名残惜しそうなティカと別れる。さて、俺はどうやって帰ろうか?今ここで扉を開けたら皆がビックリするだろうし、村の外に行くのが得策か。
「こう‥、か?」
何も無かったので道中バッサリ、と言うか何かあったら困る。俺は首に下げて居た鍵と南京錠を手に取り、錠の穴に鍵を入れるとそれは有り得ないのにかっちりと収まった。全く、不思議で仕方ないよ。
目の前にはトイレの時と同じく、四角く切り取られた不思議空間。前回は草原が見えて居たが、今回は反対に見慣れた家の壁。なので帰れる事だろう。意を決して飛び込めば、俺を壁が受け止めてくれた。痛い。
時間は異世界と同じ時間が過ぎており、音を聞き付けた双子に驚かれると言う何たる失態。でも何をしていたか、なんてバレる様な事は無かったから、それだけでも幸いだな。
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