10話
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何故レオがダウンしたのか分からないヒヨと、鳩尾を押さえて悶えているレオは放って置き、ホッとした表情を浮かべながら近付いて来たティカに向き直る。
「ツ、ツグミ、怪我してない?大丈夫だった?」
「大丈夫。レオもいたし、心配してくれて有難う」
何処か伺う様な表情のティカに、俺は安心させようと出来るだけ穏やかな口調で彼女の頭を撫でた。ティカは妹達と同い年、頭を撫でたくなるのも当然か。
持論を繰り広げていると、漸くレオとヒヨが現実に戻って来た。レオがまだ痛むのか、鳩尾を擦りながら俺達にソファーへ座る事を勧める。ダンジョン攻略終了について、依頼主のティカを交えて話す為だ。
「じゃー、先ず俺達が攻略したのは違法ダンジョンでぇ、証拠はこの古の指輪ね。違反者は魔物に取り込まれたと推測し、魔物を倒すと共にダンジョンが消滅。残念だけど羊は見つからなかった。ごめんね」
「真偽は真なのです。真実と女神様に誓うのです。これはどんな時でも覆る事は無いのですよ」
「‥‥そう。でも被害が大きくなくて助かったわ」
始まった報告会。手慣れているであろうレオはすらすらと話し、テーブルの上に指輪を置いた。そして申し訳なさそうにティカへ謝ると、ヒヨがそれを肯定。俺は何を言えば良いのか分からず、黙ったまま。
数秒間の沈黙を破り、ティカはゆっくり頷く。困った様に笑いながら。そして雰囲気を一転させるよう、ティカは溜め息を吐いた。
「はぁ、緊張したわ。次からは慌てず、母に頼もうかしら‥‥」
レオは1度席を立ち、カウンターに行って紙と何かを探している様子。俺はぼんやりその様子を見ていたが、不意にティカのぼやきが聞こえて意識が戻る。
ギルドは子供が来る場所じゃねぇ!って追い返されるイメージがあるな。ここはレオ以外いないみたいだけど、ここ以外はどう言う感じなんだろうか?
「はぁい、お待たせぇー。ティカちゃんはクエスト用紙に、コレ右の親指に塗ってこの枠の中に押してー。村長の印あるけどティカちゃんが依頼主だからねー。んでぇ、ツグミはちょっとギルドカード貸してー」
通常のクエストならこんなまどろっこしい事はしないらしいが、村例クエストはこれが普通の様子。そして何故、拇印を押すのか?
それはこの世界の識字率が4割程度、名前を書かせるより拇印の方が楽だから。身分証、ギルドカードに指紋も登録されてるから偽れないみたいだし。
四苦八苦して拇印を押すティカに癒されながら、ポケットに入れていたギルドカードをレオに渡す。カードは先程持って来た箱に入れ、何か作業している。
「こーしてぇ、あーしてぇ、ほいほいっとすればー出来上がり!」
どーぞー、と返されたギルドカードを覗き込んでも良く分からない。いや、ギルドランクの片方1つ上がり、名前の終わりに星マークが追加されている。
【冒険・商人ギルド】
【ギルドランク】1−0
【名】ツグミ・ココノエ☆
【性別】男
【年齢】25
【出身】(異)地球・日本
【加護】女神の加護
【祝福】魔・調合・商人・宝石・料理・調教()()
「レオ、説明頼めるか?特に名前の横にある星」
「はいよぉー」
簡単に言えば、ギルドランクは仕事をこなした単純回数。着いて行っただけなのにレオの計らいだな。名前の終わりに星があるのは、ダンジョン攻略者の証。
ダンジョン初級、中級、上級、特級、魔王級があり、今回は初級ダンジョンだったので星1つ。大した事して無いけど良いのか?まぁ良いか。中級、上級をクリアすると2つ、3つ、と増えていくらしい。
「あ、そろそろ私帰るわ。村長に報告して、色々話さなくちゃ‥‥」
面倒臭そうに小さく溜め息を吐いたティカは立ち上がり、俺達に礼を言って頭を下げる。短く挨拶をすれば、ティカは去って行く。去ったギルドの入口を見ていたら、不意に可愛らしいぐぅーっとお腹の鳴る音が聞こえて来た。
「〜〜っ!ご、ご飯食べるのですっ」
振り返ると微かに赤く頬を染めたヒヨがお腹を押さえており、恥ずかしそうに早口で喋ればそそくさ早歩きで奥の扉へ消えて行く。
俺とレオは顔を見合わせると小さく笑い合い、彼女を追う。扉の奥は居住区みたいな感じで、ヒヨがテーブルの上にサンドイッチの様な物を並べている。
「遅いけど昼食なのですよ。温めたのです。早く座るのです」
「美味しそぉー。ツグミ、座って早く食べよー」
「あ、あぁ」
「頂きますなのです」
「頂きまーす」
お腹がペコペコなヒヨを待たせるのも悪いし、手を洗って空いている席に座ると2人が手を合わせた。ウェブ小説ではやらない所も多いけど、この世界はするのか。俺も頂きます。
両手を合わせ、サンドイッチの様な食べ物に手を伸ばす。サンドイッチと言うよりケバブに近い。ナンを少し柔らかくしたパンに肉と野菜が挟んであり、味付けはシンプルな塩コショウのみで出来ていた。
調味料が多彩にある地球人の俺としては少々物足りなさを感じたりするが、素材の味が引き立ち十分に美味しいと言える。地球の物より素材の味が濃い。飲み物は林檎味に似たゴリの実を絞ったジュースで、さっぱりした飲み心地だから幾らでも飲めそうだ。
「あ、そうだ。夕飯は俺が作るよ」
クイナからの催促に気付き、新しい携帯食料を取り出して与える。そのついで、と言う風に穏やかに昼食を食べている2人に進言。
何故か驚いた表情を浮かべるレオとヒヨにひくり、頬が引きつるのを感じた。少しばかり不本意だが、大した身の上話もして無いからな。うん、仕方無い。
「俺、主夫歴は長いよ。見えない?」
「いや、そんな事は無いんだけどねぇー。ティカちゃんやヒヨの扱いに慣れてたみたいだしー?」
「軽く言ったと思うけど、下に2人妹がいるんだ。しかも一回り歳が離れてる。だから、慣れてるのはそのお陰だな」
「ツグ、何の料理を作ってくれるのです?楽しみなのですよ!」
「地球の野菜と結構違うから、それを教えて欲しい。それによって作る料理が変わるかな」
残りのサンドイッチ擬きをパクつきながら、2人の問いに答えて行く。アデーレさんの露店で見るからに、あべこべな野菜ばかりだった気がするからな。何に使うか教えて貰わないと、カオスな料理になる。
午後の予定は食料保存箱にある食べ物の確認、必要な物をアデーレさんの露店に買い出し。ふと、スライムの筈なのにケフッ、とゲップしたクイナを思わず見る。因みに、クイナは携帯食料一本が一回の食事だ。ちょっと食べ過ぎか?
「クイナ、家入るか?」
ギルドカードを取り出し満腹そうなクイナに話し掛ければ、おうっ!と言わんばかりの返事が返ってきた。ぬるっと魔法陣の中に入って行くクイナを見送り、俺はジュースを飲み干してご馳走様と手を合わせる。
食べ終わった3人で食器を片し、ヒヨを連れて食料庫へ。レオは流石に忙しい様なので、手伝いは無し。食料庫は三畳程の広さ。中にあるのは日持ちしやすい穀物や根菜類が多い。
「ツグ、料理は大丈夫そうなのです?」
「‥‥ん?あ、大丈夫そうかな。これなら悩まず色々作れそうだ」
見た目の意に反さなければ、案外大丈夫そうかも知れない。少々深く考え込んで居たらしく、ヒヨが心配そうに俺の服を掴む。ヒヨに野菜の食べ方を聞きながら、今夜の献立を考える。
野菜は沢山あって、肉は加工してある物が多い。不意に気になって開けた麻袋の中に大量の白い粉が入っており、聞けばスライムスターチとの事。これはスライムがドロップするアイテムで、どんな粉の代替にしても良い万能粉らしい。
流石ファンタジー。
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