番外編 ある日の商人達 sideライサ
「モチって何よ」
「モチと言うのは、コメを潰してクッキーの様に伸ばして焼いた食べ物だそうです」
「へえ、そうなの」
「何でも、東方ではこのモチを食べて年末と年始を過ごすのだとか」
皿の上には、平べったい、白く柔らかそうなモチなるものが五つ乗っかっていました。私は勿論、主人様でさえまだ口にしたことが無い未知の食べ物です。さて、そんなお味がするのでしょうか。
コメはイスバニアの港に寄港した時にもそこの料理として食べたこともありましたが、それを潰して固めて焼く、と言うのは意外ですね。やはり、クッキーの様に現地では嗜好品として食べられているのでしょうか。それとも、保存食なのでしょうか。
……にしても、ネウさんはその唇からあふれ出れる食欲を抑えきれていませんね。まあ、私は、歴史に名を残す強大な吸血鬼のこういう一面もありでは、と存じております。
こんなに愛らしい顔をされておられるのですもの。何ら不思議ではありませんね。
「主人様がご友人から譲り受けたものらしく、これは私達だけで食べてよい分という事です」
「そういうことなら。じゃあ、いただきまーす」
「ああ、ネウさん! そんなに一気にたくさん食べられては!」
一気にモチを四つ、鷲掴みにして大きく開けた口に放り込むネウさん。可愛いですね。でも、この時、私にはこの行為がもとでネウさんの命が危険にさらされることになるとは思いもよらなかったのでした。
「味は……まあまあね。けれど少し薄……ッ! ……ッ!」
「ネウさん!」
ネウさんは、おいしそうにモチを咀嚼していたのもつかの間、一気に表情を変えて、顔を真っ赤に染め上げ、喉元を抑えて苦しそうにうめき始めました。
「ネウさん! モチが喉につっかえたのですか?」
「……ッ!」
大きく、全力で強くうなずくネウさん。ああ、やはり。あんなにいっぺんに食べたのですもの。喉につっかえて当然と言えば当然ですよね。
私は急いで水をくみ、コップでネウさんに飲ませて差し上げました。
ほどなくして、ネウさんの表情は穏やかなものになり、はあ、と大きく息を吸い、吐きました。
「あ、危なかったわ……あの、モチなる食べ物には対吸血鬼用の魔力が込められていたのよ!」
「そ、そうなのですか? 私にはてっきり喉を詰まらせたのかと……」
「違うわ。あのモチには、私の喉に張り付いて呼吸をさせなくするように魔力が込められていたのよ。……ふう、危なかったわ。こんな何気ない食べ物にまで対吸血鬼用の強い魔法を施すとは、この航海、危険なものになるわね」
これ以降、ネウさんは「東方から来た食べ物」はまず私達が食べてから手を付けるようになったそうです。まあ、すぐに忘れてしまうのでしょうけれどね。
因みに、私はレモンをかけて食べてみたのですが、あまりおいしくいただけませんでした。
餅は軽く兵器だと思います。
良いお年を!




