第五章③
何一つとして、助かる手段は無い。助けも、希望も、ケシの実程のチャンスでさえも。クラインがそう感じるとともに、ふと、自分の心の奥で、得体の知れない何かが、ぼそりと呟くのが聞こえた。
もしかすると、自分はもう、残りの一生を暗く狭いこの部屋で寂しく過ごすのではないだろうか。
そう思った瞬間、膝から下がなくなったかのように力が抜け、がくんと膝をついた。
この、虚無に近いこの牢で、飢餓状態に陥り、体力もそぎ落とされ、最後に目を閉じたら、それでそのまま俺の人生は終劇になってしまうのか。
もし、仮に俺の人生の全てが演劇で、このまま幕を引いたら観客はどう思うのだろうか。自己評価にはなるが、出来の悪い「つまらない」劇だったのではないだろうか。尻切れとんぼだ、客はそう吐き捨て、つまらない演劇を見させられた後の様に、総じてごみを舞台に投げつけるだろう。
このまま牢獄の中でのたれ死ぬか、あるいは、突然海賊どもがやってきて、俺の手足に手枷足枷をかけて連行され、薄暗い船の船倉に奴隷よろしく詰められるのだろうか。そして、場所も言葉もわからないどこかの土地で、事故に遭って死ぬか、老いて使い物にならなくなるまで使役され、捨てられるのだろうか。
どっちにしたって、楽しくも面白くも無い。
そうだ。人生は、面白くあらねばならない。俺がリシュボアの商館で豪華な椅子に座っているだけで金貨の袋が日ごとに増え、ライサが俺をはるかに超すような大商人になって、東方航路を牛耳る商人になるまでは。
ネウに、どうだ、と余裕をかました顔で、あの憎たらしく可愛げのある顔が真っ赤に染まって自分自身の意思で降参させるまでは、死ぬわけにはいかない。
必ず、ここから脱出できる方法はあるはずだ。そう、覚悟を決めた矢先だった。
生まれてこの方、神など微塵も信じていなかったクラインだが、神様というものは本当にいるらしい。そして、神は決してあきらめない、しぶとく、ずうずうしく、ねちっこい奴の頭上にこそ、現れるらしい。
カラン、と無機質な音が床に響いた。床に落とした重たい視線を上げると、そこには片手で持つような小さめの鉈が一本、転がっていた。どこから落ちてきたのかと上を見上げると、先程まで何も見えなく、太陽の光が降り注いでいた鉄格子には上等な革で作られた靴が見えた。
焼肉生活第一日目です。




