第五章②
ネウならば、吸血鬼だから海賊なんぞ一ひねりで全滅させられるのだろう。だが、ライサとなると話は別だ。
ライサは確かにナイフの腕も立つし、護身術もかなり上手いが、それでも複数人相手では敵わない。特に、相手がナイフなんかでは太刀打ちできないような、例えば鉈や太刀なんかを持っていた場合には。
一方で、クラインは力も飛びぬけて強いわけでもなく、ライサの様に暗殺者並みの投擲技術も、ネウの様に人間越えした驚異的な寿命から得られる莫大な知識も、人間を畏怖させるような能力も持っていない。
が、出来ることはひとつ残らず実行する。それくらいしなければ、自分の失態でこんな目にあわせてしまった二人に顔向けすらできないような気がした。
まずは手始めに、扉の外に誰かが居ないか、確かめてみることにした。クラインは木の戸の前に立ち、強めに扉を叩いた。
「……」
少し待って、その後の反応を確かめてみたが、反応は無い。どうやら、見張りも置かずに、クラインをここに投げ込んだらしい。今からまさに脱獄しようと試みているのに、見張りを置いていないなど、油断しているにもほどがある。
確か何処かに鉄製のナイフがあったはずだ、と懐やポケットなどを探したりもしたが、櫛一本、楊枝一本とて見つからなかった。服の裏側に縫い付けた判子だけは残っていたので、少し安心した。これを取られる事があったなら、クラインはもう今の商会に留まることは出来なくなってしまう。
扉は木製だが、体当たりしても、蹴ったり殴ったりしてみても、びくともしなかった。見張りを置かなかったのには、理由があったらしい。
となると、扉から出るのはほぼ不可能のようだ。クラインにあと一つ脱出口が残されているとするのなら、それはクラインの背後にある鉄格子のされた明り取りの窓だ。ただ、それは先程の通り、クラインが背伸びしてようやく指の先端が届く程度の高さにある。この窓からできることと言えば、せいぜい大声を出して助けを呼ぶくらいだろう。
クラインはよし、と覚悟を決め、大きく息を吸った。
「誰か! いたら返事してくれ! 助けてくれ!」
その後、クラインはこの声に気付いた相手の目に触れやすいよう、なるべく窓のある壁に寄りかかり、出来る限りの大声で叫んでみた。
わずかに見える外の景色から誰か通らないか凝視してみたが、影すら見当たらず、それどころか人の声、鳥の鳴き声一つ聞こえてこなかった。
何か一週間に焼肉を食べる日が二日もできてしまう事態がおこりました。




