第五章①
牢獄というものは、殊の外寝心地が悪い。石造りの壁は堅いし、床も背丈の三分の二程度の長さの藁が積まれているだけ、いや薄く敷かれているだけで、他には石畳の冷たい床があるだけだ。
船よりましなところをあえて挙げるとするならば、牢獄は波にさらされて揺れないことくらいだろうか。
「クッ…………」
少し、何が自分の身に起こったのかを思い出そうとする。すると、頭がきつく締め付けられるような痛みが走った後、少しずつ、記憶が整理されてきた。
覚えているのは、クラインがウルバーノに裏切られた後、この牢屋に投げ込まれたこと。そして、昨日から一晩明け、次の日になっていることくらいだ。何故次の日になっていることが分かるかといえば、それは空気の温度の差だ。
ウルバーノに会ったのが朝も朝食を食べ終えたころであるから、空気も冷たくなく、温かいくらいの温度だった。それが、今起きてみると、早朝のような冷たさである。牢獄の中、と言う条件を鑑みても、ウルバーノにあった時間よりも前の空気の温度であることは間違いなかったからだ。
明り取りの鉄格子がなされている窓は、男でも背の高い方に入るクラインが背伸びをして手をぎりぎりまで伸ばせばようやく指の先が届く程度の高さにあるため、到底そこから脱出することは出来そうにない。
自分の周囲には堅そうな石積みの壁が四方を囲み、目の前にはこちら側には取っ手も穴も無い木の扉があるだけだ。珍しいことに、銅製の金属板が扉に組み込まれていることから、錠前までついているとわかった。普通は閂で閉められているのだが、この扉は立派にも錠前の様だ。
「……我ながら、よくもここまで絶望的な状況にできたよな」
一通り部屋の状態について確認し終えると、クラインは自分が寝ていた、まだほんの少し熱の残っている場所へ戻り、座り込んだ。
もう、悲しんだり、自分を哀れんだりすることすらできない。美味い話に乗っかっていった挙句、騙されて牢に投げ込まれる始末だ。これを笑い話と言わずしてなんというか。
出来ることと言えば、今の状況がどうしようもなく絶望的で、善処のする切り口すらない事を自覚するくらいだ。
どうする、どうする。
そんな、答えも出ない言葉ばかりが自分を追い詰める。ライサも、ネウもここにはいない。別の牢に閉じ込められているか、或いは。
「いや、違う。違う」
考えたくもないことが次から次へと水面に浮かぶ泡の様に湧き出てくる。「違う」と繰り返し言っていないと、あたかもそれが本当になってしまうような気さえしてくる。
風邪治りました。と思えばもう年末ですね。




