第四章㉙
今のクラインにとって、その短銃は黒光りする事だけが違う、死刑宣告状にさえ見えた。
「……それで、私を……撃ちますか」
「いえいえ。そんなことは。脅しですよ。貴方達は最初で最後の、いいカモでしたよ。苦心して情報を流したかいがありました」
ウルバーノは鬱蒼と生えた髭の中で、気味の悪い笑みを作った。黄ばんだ歯が一層気持ち悪く見え、臭いこそしないが、悪臭が立ち込めて来そうな声を発していた。
「ああ、別に、あなたに「ガーボヴェルディなら、あらゆるものが高く売れる」という、偽情報をもたらしてくれたあなたのご友人は私達とは何の関係も無いので、そこは心配なさらずに。おお、怖い怖い。そう恐ろしい顔しないで下さいよ。あなたの船も、乗組員も、積み荷も全て、全てもらってあげますよ」
ウルバーノは自然と上を見上げる形になっていたクラインの眼を見るなり、にやりと微笑んで、金時計に目をやって時刻を確認した。そしてネジを少し巻くと、クラインに再び目を向けた。
クラインは、実体のない痛みと苦しさに気を失いそうになりながらウルバーノを見上げ、高笑いが混じった御託をただただ聞くしかなかった。
「それに……あなたは他の商人どもとは違い、生かしておいてあげますよ。なんてったって、高く売れそうな娘を二人も一緒に連れてきてくれたんですから。そうですね……あなたは西方のどこかの港で売り払ってあげましょう。奴隷として、ね」
遂に、ウルバーノの勝ち誇った、見下すような笑みを浮かべた顔の紡ぐ汚い言葉を聞き終わると、クラインはそこで意識を失い、記憶も途絶えた。しかし、ウルバーノが最後に発した、その言葉だけはしっかりと聞き取った。それは、クラインにとってこの上ない屈辱の言葉。
「馬鹿ですねえ、本当に」
風邪をひきました。人間、病気にだけはなりたくないものですね。




