第四章㉘
舌がしびれ、喉の奥が焼けるようだ。めまいに加え、強い頭痛もしてきた。足だけではもはや自分の体重を支えていることはできなくなり、今や壁についている腕の力だけで体を支えている。
「……はい。正直、立っているのも、こうして喋っているのもやっとの状態です」
「そうですか。それは危険ですな。私が淹れた紅茶に毒でも入っていたんでしょうかねえ。あ、そうそう。クラインさん。あなたのお連れも、もう限界のようですよ?」
ウルバーノが首を傾げた。まさか。クラインは残った力を使って、ゆっくりと、背後を振り返った。
「ライサ……! ネウ……!」
「もう駄目、です……すみません……!」
「油断、したわね……私とした、ことが……」
クラインが力を振り絞って後ろを振り向いた途端、二人は地面に倒れこんだ。ネウも、こんな奴に、と最後まで踏ん張ってはいたが、毒には成すすべもなく、そのまま意識を失った。
「ウルバーノ……! お前……!」
「ええ、お察しの通り」
そうして、ウルバーノはぱちんと指を高く鳴らした。その合図と同時に、建物内から数人の体格のいい男たちがぞろぞろと出てきた。手に持っている鉈や、柄の悪い顔つきを見る限り、どうやら海賊らしい。面白いのは、全員、ウルバーノと同じく、皆揃って、醜悪極まりない面をしている事だった。
成程。ウルバーノは海賊だったのか。すると、ウルバーノは俺を騙したわけだな。もはや、感情さえも麻痺して、絶望しそうな状況にいるのに泣き叫べもしない。それだけは、有難かった。
毒などでなく、ただ騙されていた、という事実のみが襲いかかっていたのなら、クラインは間違いなく床に突っ伏し、絶望がいかに人の心を握りつぶすかを、裏切りがいかに人間の信じるという行動を踏みにじるのかを思い知らされていたことだろう。
「私は一つ、貴方達に嘘をついていました。誠に申し訳ない」
「……実は、海賊だったこと……ですか?」
残った力を全て絞りきるように吐いた声は、自分でも本当に発していたのか分からないほどかすかだったはずだ。
商人として、意識を失う最後まで、冷静さを欠いてはいけない。クラインはこんな瀕死の状況になっても、まだ解決策はあるはずだ、と必死に考えを張り巡らしていた。
しかし、ウルバーノは余裕綽々にクラインに応じ続ける。
「いえ、違います。……私が、初めからあなたと取引なんてする気が無かったことですよ」
ウルバーノはそう言い放つと、懐から短銃を取り出した。
またテストです。近所の紅葉を見にいきました。




