第四章㉗
ウルバーノは満足げにクラインに笑顔を向け、握手を求めた。クラインは前の証書が入っていた革の入れ物にその証書をしまってライサに渡し、ウルバーノの手を握り返した。
「後は、この証書を他の植民地で金貨に替えれば、契約は完遂されますね」
クラインは早くも、証書を手にした段階で、その金をどうしようか、と皮算用を始めていた。本国なら高価な品の買い付け用にするのが一番だが、植民地では銀山や金山の投資に使うのもいいかもしれない。まだ植民地になって日が浅い土地には新大陸に負けず劣らずの金銀が埋まっていると言う。もし、鉱山開発に成功してくれれば、クラインのたもとに戻ってくる金貨は投資した額の何倍にもなって帰って来る。こんなにうれしい話は無い。
こんな皮算用が実現可能に思えてしまうほどの利益――リモーネ金貨にして千枚もの儲けを出してくれたウルバーノとは、今後も付き合うことになりそうなので、少し支払う金を多くしてもいいかもしれない。
「そうなんですが……」
「どうかされましたか?」
クラインが不意に残念そうな表情をしたウルバーノに声をかけると、ウルバーノは、急に我に返ったように表情を戻した。
「いえ、何でもありません。それより、お体の方は大丈夫ですか?」
そう言って、ウルバーノはゆっくりと、クラインの方に手を差し出す。
いきなり妙な事を聞いてくる。今朝から体の調子もいいし、筋肉痛も肩こりも、珍しく腰痛も無い。栄養不足による壊血病も、栄養面だけには気を使っているため、幸い発病していない。事務処理ばかりの船内では、腰痛とは長い付き合いになる。
「この通り、今は元気で……おっと」
急に、クラインは体の底から力が抜けていくような、例えるなら葡萄酒が満杯に詰まった樽に大きな穴をあけた様に、体中の力という力が抜けていく脱力感に見舞われた。
するとウルバーノは髭の生えた口元を黄ばんだ歯が見えるくらい大きく開いた。
「おや、急に足を崩されて。いかがなされました?」
「すみません。どうやら、軽い貧血でも起こしたようで……」
口ではいくらでも強気を張れるが、実際は建物の壁に手をついて体重を預けていないと、このまま地面に倒れこんでしまいそうな気さえした。
わずかな間に、眩暈がしてきた。今までに経験したことも無いような、強い眩暈だ。目に映る世界がまるで粘土のようにぐにゃりと曲がって、視界に映る全ての形がおぼろげになる。
「舌がしびれますか? 頭が砕けそうですか? 立っていられますか?」
クラインの体調がどんどん悪化していくのと正反対に、ウルバーノの笑顔は一層濃く、汚らしい、醜悪なものに変わっていく。この男、まさか。ここにきて。
久々に、小学校のころの先生と連絡が取れました。




