第四章㉑
ウルバーノの提案を受けることにしたクラインは、この交渉が終わり次第すぐに出航できるように船員たちを船に戻し、ネウとライサだけを引き連れ、昨日去り際にウルバーノが教えてくれた、ウルバーノが両替商を経営しているという建物に入った。
建物の外見はディオーネ商会の商館とまではいかないがそれなりに大きく、立派な建物で、年季が経って古びてはいるものの、まだ柱や壁は丈夫そうだ。
「さあ、入るか」
クラインは半ば自分に言い聞かせるように、決意の念も込めてそうつぶやいた。もう、後戻りはできないのだと、自分自身に分からせるためだ。
一つ心残りなのは、ウルバーノが本気で今回の取引に応じるつもりがあるのか、もしくは、騙して全財産を奪うつもりなのかだ。しかし、今それを案じてみても、同行できる問題ではない。もし、ウルバーノがだますつもりなのなら、クラインはそれをいち早く察知し、回避すればよい。
クラインは二回、木の扉を軽くノックし、扉が開くのを待った。すると、間もなくして扉はクライン達の方に向かって開いた。
「おお、クラインさん! きっと、来て下さると思っていましたよ!」
「ええ。こちらも楽して儲けたい心が無いわけでは無いですからね」
クラインは両手を広げて出てきたウルバーノに、にこやかな笑みで答えた。勿論、手元には昨日儲けた証の海賊銀五十五万六千五百枚もの価値のある、証書の入った分厚い革の入れ物を持って。
ウルバーノは一瞬、金時計に目をやって時間を確認した後、その袋を視界にとらえると、驚いたように、嬉しそうに口を大きく開いて、クライン達を建物の内部へ招いた。
「入り口での立ち話ですと、いつ海賊どもに目を付けられるかもわかりませんし、奥へどうぞ」
若干浮き足立っているウルバーノを見る限り、客が来たのが随分と久しぶりらしい。その歩き方から、表情から、そういった明るい感情が読み取れる。
建物は商館や交易所によくみられる高い吹き抜けであり、確かに大きな造りだが、設計自体は単純で、広い応接間と扉を挟んだ向こうにあるウルバーノの執務室の、二部屋しかないと思われる。
その応接間の奥の執務室の扉は両開きで、これもこちら側に開くようになっている。
中の執務室は大小様々な天秤と、金貨や銀貨、その他見慣れない貨幣が詰まった袋が散乱していた。その中央に、クラインの船の執務机に似た作りの事務机が存在していた。海賊に襲われたというのに、大した被害は受けていないように思われる。
そんな中、ライサはウルバーノの背中を見つめていたが、ウルバーノが振り返った瞬間に口を開いた。
「あの、ここの店は被害には合われなかったのですか?」
するとウルバーノは初めからその問いを予想していたかのようにわずかに口の端を引き、黄ばんだ歯を見せた。
テストまじかです。




