第四章⑲
ネウはクラインの問いに答えるようで、半分に割った馬鈴薯の残りをクラインに見せつけた。半分に割った馬鈴薯の中に、ほのかに立ち込める湯気を放つ黄金色の断面をのぞかせていた。
「この、芋ね」
「芋……ですか」
「芋か」
あまりにも突拍子もない例えを聞かされ、ライサはぽかんと、一瞬顔から表情が消え、首をかしげた。対し、クラインは思わず小さく吹き出してしまった。ライサはとっさに我に返ると、やや恥ずかしげに頬を赤らめながらたじろいだ。
「この芋は見た目こそ土色でおいしくなさそうだけれど、中身はこの通り、黄金に染まっているわ」
「疑ってかかるな、と言いたいんだな?」
「ええ。それに、芋だからと生でかじりつくのもだめ。毒があるから」
ネウはそう言って、馬鈴薯の芽をつまみ、暖炉の中に投げ入れた。投げ入れられた芽は炎に焼かれてたちまち黒く炭化し、燃えている薪から出来た炭と全く見分けがつかなくなった。
「油断するな、か」
「面白い例えですね」
ライサはくすりと笑った。
この芋一個で、商売の基本を教えられたというこの現状がだんだんと面白おかしくなってきて、思わずクラインの表情にも笑みがこぼれた。
相手が必ず裏切るだろうと疑って交渉に臨むことは愚かだ。かといってそんなことは無いだろうと油断して交渉に臨むこともよろしくない。まさに、昔師匠に教えられたとおりだ。それに加えてネウの例えを用いた証明の仕方が実に的を射ていて、こればかりは商人としての経験すら無い素人のネウに、脱帽した。
「商売の基本よ。分かった?」
「ああ、十分にわかりきった」
そう言って、クラインは、お前の期待くらいには応えてやるさ、と笑みを向けた。それが合図でもあったかのようにネウはニッコリと無邪気な笑顔で応えた。
「せいぜい、頑張りなさい」
「全力をもって頑張るのみだ」
もうすぐ友達がこの小説の登場人物の絵を描いてくれるそうです。
楽しみです。




