第四章⑱
「この、芋ね」
「芋……ですか」
「芋か」
あまりにも突拍子もない例えを聞かされ、ライサはぽかんと、一瞬顔から表情が消え、首をかしげた。対し、クラインは思わず小さく吹き出してしまった。ライサはとっさに我に返ると、やや恥ずかしげに頬を赤らめながらたじろいだ。
「この芋は見た目こそ土色でおいしくなさそうだけれど、中身はこの通り、黄金に染まっているわ」
「疑ってかかるな、と言いたいんだな?」
「ええ。それに、芋だからと生でかじりつくのもだめ。毒があるから」
ネウはそう言って、馬鈴薯の芽をつまみ、暖炉の中に投げ入れた。投げ入れられた芽はたちまち黒く炭化し、燃えている薪から出来た炭と見分けがつかなくなった。
「油断するな、か」
「面白い例えですね」
ライサはくすりと笑った。
この芋一個で、商売の基本を教えられたというこの現状がだんだんと面白おかしくなってきて、クラインの表情にも思わず笑みがこぼれた。
相手が必ず裏切るだろうと疑って交渉に臨むことは愚かだ。かといってそんなことは無いだろうと油断して交渉に臨むこともよろしくない。まさに、昔師匠に教えられたとおりだ。それに加えてネウの例えを用いた証明の仕方が実に的を射ていて、こればかりは商人としての経験すら無い素人のネウに、脱帽した。
「商売の基本よ。分かった?」
「ああ、十分にわかりきったさ」
クラインはお前の期待くらいには応えてやるさ、と笑みを向けた。それが合図でもあったかのようにネウはニッコリと無邪気な笑顔で応えた。
「せいぜい、頑張りなさい」
「全力をもって頑張るのみだ」
この、常に上からものを言う様な尊大な態度。可憐な顔に似つかわしくなく、あまり愛らしいとは言い難い、射るような目つき。口元をわずかに上にあげ、磨き上げた大理石の様に白い前歯をわずかに見せる、にやついた笑み。そんな、繁華街のいたずらっ子を思わせる、ネウのひん曲がっているようで子供の様に真っ直ぐな性格は、クラインの思惑をことごとく攪乱してきた。もしかすると裏があるのではないかと疑えばそうでは無く、空振りに終わったり、かといってまともに話せば思いもよらぬ裏があったり。
食費もかさむし、寝相は悪くないが、寝起きは最悪で、正体が教会に見つかれば火あぶり確定の、この娘が吸血鬼であるという事実。
文化祭終ったらテスト尽くしです。
妹、初段合格しましたかね。




