第四章⑰
「少なくとも、私の正体……私が吸血鬼であるという事だけれど、それが貴方達二人以外の人間に知られるような真似だけはしないでほしいわ。これは双方にとって、重要な約束よ」
「…………ああ、分かっている」
「また教会に追い掛け回されるのも面倒くさいのよね」
ネウの言葉は「教会に追いかけられるのが面倒だから」クライン達と行動を共にしているに過ぎない、という事実を突きつけるものだった。
クラインは、改めて自分が鎖でつながれた犬なのだと実感した。これはライサもきっと同じ気持ちなのだろう。
ネウと契約を交わした当初こそ、ばれてしまっては不味いと思う一方、逆にネウを切り札として利用し、今までに出来なかった、目上の相手に対しての強気な取引や、ネウが吸血鬼であることを利用して、海賊狩り等で儲けようとも考えたが、それは自分がネウより上の立場にいたときのみ可能な方法なのだ。だが実際ネウは、自分よりはるかに格上の存在だ。知能も、力も。
何のことは無い。自分はいつでも、ネウに首を飛ばされてもおかしくない状況にいることに、あの日の夜も今も変わりは無い。
ネウは、吸血鬼という、人外にして化物である自分を目の当たりにしても命乞いもせず、逃げ出そうとあがかなかった自分に対し、至る所で教会に追われるという、面倒なことから逃れるためにクラインを利用したに過ぎない。
「でもね、私は、貴方達が危機に瀕している所を見過ごせるほど薄情者ではないわ」
「どういう意味でしょうか」
口に含んだ半分の馬鈴薯を咀嚼しながら、ネウは不意に呟いた。その声に反応し、クラインは足元に向けていた視線をネウに向けた。
「そのまんまの意味よ。私だって、契約上であるとはいえ、貴方の立派な同行者よ? 貴方は誰だか知らない叔父の娘だって言っているようだけれど……。まあ、貴方を守るくらい、教会のしつこい軍を蹴散らすのに比べればそう難しいことではないわ」
ネウは、クラインに向かってにこりと微笑んだ。安心しろ、という意味だろうか。
「大船に乗ったつもりでいろ、と言いたいのか?」
「ええ。大船どころか、ガレオン船以上の船に乗ったつもりでいてくれていいわよ」
そう言って、自慢げに小さな胸を叩くネウ。いまでは、そんなちょっとしたことでも、頼もしい。
クラインには、何故だか、ネウが自分を縛る鎖のような存在には思えなくなっていた。
「でも、油断しない事。それに、疑ってかかるのは良くないわ」
「どういうことだ」
ネウはクラインの問いに答えるようで、半分に割った馬鈴薯の残りをクラインに見せつけた。
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