第四章⑫
「……で、奴の言ったことは本当なの?」
「聞いていたのですか」
「当たり前よお。口はふさがっていても、耳はふさげないもの」
ネウの突然のライサへの質問に、クラインは少しの間、収支計算表の羊皮紙の上でペンを走らせていた手を止めた。
酒場でウルバーノと別れた後、クライン達はその近く、狭い路地をはさんだ四軒先にある宿の予約を取った。
船員たちは、積み荷の積み込みが終わると勝手にあらかじめ予約を入れておいたこの宿に行き、先に寝てしまっていた。久しぶりに地上で寝るのだから気がはやるのも理解できる。逐一命令しなくても自主行動ができるのはいいことだが、勝手な行動をとるところには心配なところもある。
「あの、両替の話の提案ですね」
「ええ」
初めは安いだけが唯一の取り柄のような宿に愚痴を漏らしていたネウもいい加減慣れてしまい、ネウはライサの作った普段の貿易路を記した地図を眺めていた。
久々の陸地なのに安宿に泊まっているのも、ネウの食費が案の定、その料理代に目を瞑りたくなるような額だったため、セウタの宿のような安い部屋に泊まらざるを得なかったからだ。
あれだけ、通常の人間なら三日かかって食べるような量を一晩で平らげたくせに、安宿に泊まるとクラインが言った途端にネウは口をとがらせて不平不満を吐いた。
パンを一つと、魚と香草の包焼きとパンと言った簡素な食事だったクラインと、豚肉が少し入った質素なソテーとパンだったライサにしてみれば、それは当然、クラインが眉間にしわを寄せる結果となった。
ふと、短く考えてから、ライサに代わって言葉を発する。
「結論から言えば、かなり信憑性が高い」
「どうして?」
「まず、ウルバーノは両替商だ。両替商本人からの情報となると、あの話が真実である可能性はぐっと高まる」
ウルバーノは、クラインに対しあの時、貨幣の両替に関する取引を仕掛けてきたのだ。
西方諸国では通常、金と銀の比価は一対十五である。これに対し、金銀財宝を略奪して、占領した街に海賊通貨を乱発された街での比価は一対四である。新大陸が発見され、多くの金が西方に流れ込んできているが、海賊に奪われる財宝も多い。
そして、海賊は町で娯楽の限りを尽くすために奪った財宝を金に換える。すると、その街では金が大量に出回る為、金の価値がぐっと低くなる。この特異な比価は、海賊がほとんどの財貨を回収してその街を去るか、海軍に滅ぼされて粗悪な海賊銀一枚も残さず海軍に押収されるまで変わらない。
この仕組みを利用して、ウルバーノは通常の交易以上の利益を得ようと画策していたのである。
明日から合宿です。先輩が言うには「死ぬ」らしいです。




