第四章⑪
「所詮、貴方が私を思う気持ちってのはその程度なの?」
「…………」
ところが、クラインにはある考えが浮かんだ。別に、言葉を考える必要など、無い。「ネウを黙らせることができれば」いいのだ。ネウの気を損ねることもなく、ネウのこのにやついた笑みを消すことのできる可能性を秘めた行動を思いついたのだ。
「……可愛いぞ、ネウ」
「ヒャッ⁈」
クラインは、ネウのその小さな肩を両腕で覆い、抱きついた。この予想外の行動に、ネウは頬を赤らめ、先程までの余裕綽々の表情を一変させた。今は夜で誰も見ていないからクラインもこんな真似ができるが、当然、これを白昼堂々やろうとする勇気は無い。
そしてクラインは、計画通り、ネウを黙らせることに成功した。
「これで十分か?」
「……わ、わたしは、褒めろ、と言ったのよ……?」
「おや、知らないのか? 人間じゃ、抱きつくことも称賛の行動なんだが?」
勿論、大抵は仲の良い行動として使われているが、この際はネウを黙らせればいいのだ。そんなことは関係なかった。
「反則よ……」
「そんな決まり、聞いていないが?」
珍しくネウが劣勢なので、クラインはここぞとばかりに畳み掛ける。どうやら、何もかも計算づくめで行動していたネウには予想外の事態と言うものにとことん弱いらしい。
クラインもあらゆる予定を立て、その予定通りに行動はするが、仮に予想外の出来事が発生したとしても、こんなに混乱はしない。柔軟に考え、最善の行動をとる。
例えるなら、クラインが柔らかく、弱い亜熱帯の樹木だとすれば、ネウはさしずめ極北で育った硬く強い針葉樹といったところか。
「貴方が、まさかこういうことができる人間だとは思いもしなかったわ」
「俺も、お前がまさかそんな弱点があるとは思ってもいなかったがな」
クラインはネウに抱きついていた腕を放し、ネウから離れた。
「もう充分だろ?」
「……ええ。本当は、貴方に行動力の大切さを教えようかと思ったけど、もう、いいわ」
ネウは心なしかまだ物足りないようにさびしげな表情をしたが、すぐに笑顔に戻った。
そうしてクラインとネウは再び歩みを進め、ライサの待つ宿へと向かった。その夜は寒い夜風が強く吹いていたはずだったのだが、ネウと一緒に居ればそんな寒さは微塵も感じなかった。
必修の 補修で消える 夏休み
休みとは何ぞや




