第四章⑩
「勿論、貴方の「商人としての」頭の良さなら十分に認めるわあ。でもね、何と言えばいいかしら……。ああ、もどかしいわね。簡潔に言えば、人間らしさの頭の良さも必要だと思うわ」
「人間らしい、賢さ……?」
どういう意味だ。頭の良さ、賢さなら計算が速いであるとか、測量の腕が良いとか、頭がよく回るとか、政治手腕が良いだとか、そういうもののことを言うのではないのか? 今まで、それらを「賢い・頭が良い」と信じてきたのだ。当然、そう学んできたのだから、周囲の人間の理解も同じではないのか。
「そうよ。例えば……そうね。私を褒めてみなさい」
「は? お前をか?」
「ええ。こんな美人が目の前にいるんだもの。いくらでも褒められるでしょう?」
ネウは急にクラインの目の前に立ちふさがり、にこりと笑って見せた。丁度、まだ灯りの灯っているパン屋の灯りの前であったから、ネウの姿はくっきりと見えた。
確かに、実際ネウはライサにも劣らず、どれだけ賞賛してもそれを表現する言葉の足りなさに絶望する程の可愛らしさがあり、美しいが、どうやらそれを言葉にして言えと言っているようだ。だから、「お前のことを褒めるにはこの世にある言葉が足りないな」と誤魔化そうと思ったが、ネウは
「具体的に、言葉でね」
と釘を刺したものだから、それは憚られた。それでクラインは仕方なく、まじめにネウを褒める言葉を探した。なぜ、ネウを褒めなければならないのか。これは勿論ネウが自分を褒めろと言って来たからなのだが、特に予定に追われているわけでもない。ネウの遊戯に付き合ってやってもいいか、と自己完結した。
「そうだな……まず、花のように美しいな」
「そう、ありがとう。で?」
「花のように美しい」の褒め言葉は一般的だ。花の部分が具体的な花の名前に変わる場合もあるが、一般的なのはやはりこの文だ。普通の女性はこの言葉を投げかけられると、たちまちのうちに赤面し、男に好意を抱くようになるだろう。だが、ネウはその褒め言葉をさらりと右から左に受け流し、次の言葉を催促した。
「……実に愛らしい顔をしている」
「あら、そうなの。次」
自分のことを褒めてもらって、こんな高圧的な態度を取る奴が、ネウの他に存在するだろうか。より取り見取りの宝石の中から自分に合うものを見つけようとしているどこかの大貴族の令嬢の様に澄ました顔をしているが、本当に楽しそうで、嬉しそうな顔をしていたから、憎めなかった。
「…………あ、えっと……そうだな……」
「あら、もう終わりなの?」
クラインが言葉を詰まらせると、ネウはここぞとばかりに牙が見える程口を引き、追い打ちをかけた。
夏休みまであと一週間です。でも、必修前期補修と
部活で、学校が本当に休ませる気があるのか怪しいです。




