第四章⑧
「ええ、ですが、長距離を旅することを拒んでいては、さらなる利益は得られません。まさに、自分の歩いた歩数は利益に比例すると言っていいでしょう」
まだ商人として駆け出しだったころに、よく師匠から教えられた言葉だ。「儲けたいのなら、人より多く歩け」「歩かない奴に金は来ない」と。昔、船の代わりに使っていた、乗り心地の悪い馬に乗るのを渋ってよくその言葉を投げつけられるとともに堅い拳で殴られた思い出が否応なしに蘇る。それは船を手に入れた今であっても、同じことだ。
だからこそ、次にウルバーノから発せられた言葉を聞いた時のショックは大きかった。
「ですが、もしも島を一周もしないうちにその儲けの三倍を手にすることができたのなら、どうしますか?」
「え?」
馬鹿な。クラインは自分の耳がおかしくなったのではないかと疑った。だが、周囲の声ははっきりと気味が悪いほどによく聞こえる。耳がおかしくなったわけでは無い。
普通、島を一周も歩かずにアーモンドをサントメに売って得られる利益の三倍を手にすることができるわけがない。だが、この両替商はそのことをあたかもこの世の常識であるかのように平然と口にした。
「まさか。盗みでもするおつもりですか? 貴方はそんなことをするような人には見えませんでしたが……」
クラインはウルバーノの金時計に目をやる。もし盗賊や海賊と同じ類の事をして金を稼ぐつもりだったのなら、当然、貧相なウルバーノの身なりに合わないその金時計も盗品という事になる。
「いえいえ、そんな下衆じみたことなんてしませんよ。しっかりと、「商売」で儲ける方法なのです。それも、「交易商人」と「両替商」この二役がそろわないとその儲けにありつくことはできません」
ウルバーノは、灰色の髭の中から黄ばんだ歯をわずかに覗かせた。
「あなた、リモーネ銀貨はお持ちですよね?」
お腹空きました。早く妹帰って来ないかなあ。




