第四章⑦
「ならいっそのこと、一か八かで新大陸に渡ってみてはいかがです? 新大陸では、未だに多くの金銀が眠っているそうですよ? うまくいけば、成功するかもしれません」
「ははは、なかなかいい方法ですが、私には長年やってきた両替商を意地の問題で辞めるわけにはいかんのです。あと十年、いや、少なくとも十五年は、この職業で儲けてみせますよ」
ウルバーノは黒パンを食べ終わると、大きな袋の中から枯れ草色に乾いた豆を十数粒、口の中に放り込んで堅そうに咀嚼し、テーブルの上に置いてあった水差しの水を大口開けて飲んだ。
「で……こういう話に首を突っ込むのはあまり褒められたことではないのですが、クラインさんは次の街に何を売りに行くおつもりですかね?」
確かに、ウルバーノの言う通り、何処の町で何を買って何を売るのかと言う質問は商人たちの間での会話と考えると、それは良い質問か、それとも悪い質問か。
どちらかと言えば愚問に近い。何故なら、相手に次ぎ自分が運ぼうと思っている交易品を教えれば、それを相手が丸ごと買い占める、なんてことも有り得るからだ。そうなってしまえば折角の儲けを失ってしまう事につながるので、当然、答えが聞き出せるわけがない。
が、ウルバーノは両替商だ。両替商も立派な商人とはいえ、街に定住している商人である。
両替商が相手の次の積み荷を知ったところで意味がないし、この質問はよく酒場の主人や町の踊り子にも訊かれるし、ネウにも訊かれた。
だから、快く、こう答えてやった。
「次は、そうですね……アーモンドなんかを持って行こうかと思います。アーモンドは、近年需要が高まりつつあるので、私もその流れに乗っかるつもりです」
「ほう、アーモンドですか。どこまで持って行くおつもりで?」
老人になると、話し相手に質問する回数が増えるという。だから、今でこそ口にたくさんの肉を蓄えて黙っていてくれるネウも、ガーボヴェルディに着くまでは船でいろいろと質問された。
そのたびにライサは面倒くさがるクラインの代わりに逐一ネウの質問に快く答え、良く嫌な顔一つせず、応じていた。クラインでは、とてもまねできそうにない。最大でも、五回ほどが限度だろうか。
若干の苛立ちを覚えながらも、クラインはライサに負けるわけにはいくまいとニッコリと商売用の笑顔を欠かさずに答えた。
「そうですね、香辛料交易はまだ手が届きそうにありませんし、さらに南のモザンビークにでも売ろうかと思います」
「モザンビーク……ずいぶん遠いですねえ。色の違う海を二つほど、越えなくてはならんのでしょう?」
モザンビークは、ガーボヴェルディよりもはるか南に位置する商業都市だ。
ポルトギア王国の植民都市でも一、二を争う大植民都市だが、気候は熱帯だ。人口も多いうえに赤道付近に位置するために疫病も流行りやすく、薬としての価値もあるアーモンドは常に一定以上の需要がある。
定期テスト面倒です。




