第四章④
「いえ、結婚はしていましたが、結婚式の直後に妻が流行り病で死んでしまって……。再婚するのも妻に申し訳がないですし、どうしようかと考えていたらもうこんな歳になってしまって。はは、年月が経つのは本当に早い」
「そうですか、お悔やみ申し上げます」
「そんなご丁寧に、結構ですよ。死んだと言っても、もう何十年も前の話です。見ての通り貧乏でしてね、墓もろくにたてられませんでしたし、思い出も今ではほとんど忘れてしまって、無いに等しいです」
男はクラインにありがとう、と小さく言うと、持参した水筒を取出し、水を一口、口に含んだ。すると男は次に未だに料理にがっついているネウの方に視線を移し、クラインに尋ねた。
「食欲旺盛なお嬢さんですね。妹さんですか?」
「いえ、私の従姉弟でして。ネウと言います」
「ネウさん、ですか」
男は不意に驚いたように、充血しているのか、赤くなっている目を大きく開くと、そこで無言になった。クラインがどうしたのか、と声を掛けようとすると男は急に小さくせき込み、苦しそうにうめいた。
「ウウ…………」
「大丈夫ですか?」
とっさにクラインが気を使うよりも早くライサが背中をさすると、男はいくらかましになったようで、大きく深呼吸をした。
「おお、ありがとうございます。私も、歳でしてね」
「お体には十分気を付けてくださいね」
ライサは水の入ったコップを差出し、男はそれを静かに受け取ると、ゆっくりと飲み始めた。
「どうしました? 風邪ですか?」
「いえ、もともと体が弱いたちでして……ああ、気にしないでください。それで、あちらの娘さんはなんと言いましたっけ」
男は呼吸を整え、先程の質問の答えを聞き直した。髭でおおわれてはいるが、髭に隠れている素顔は土気色をしていた。それなのに、意外にも表情は病人がするような弱々しいものではなかった。
「ネウです」
「そうですか。こちらもライサさんに負けず劣らず若く綺麗なお方ですね」
男はそう言ってネウにしわで包まれた口をわずかにひき、ネウに微笑みかけたが、ネウはそんなことには気づきもせず、鶏肉を口いっぱいにほおばっていた。
「ところで、つまらないことをお聞きしますが、お名前をお聞きしても……」
「ああ! そうでした! 私も一介の商人としたことが。すみませんね。私は両替商をやっております、リベルト・ウルバーノと申します」
「ドラガーナ・クラインです。貿易商人をやっております」
話を聞けばウルバーノは、ガーボヴェルディの中央広場で両替商を一人で営んでいて、それなりに儲かっていたが、海賊に街を占領されてから店には客がめっきり来なくなってしまい、今現在はほとんど休業中なのが現状だという。
中間テストでしたが、そんなに良くなかったです




