第三章㊶
クラインは冷や汗の出る思いでアルメンダリスと話をしているのを、念力か何かで隣に座って先程までびくびく笑いに震えていたネウに伝えられないものだろうか。尤も、そんなためだけの念力を修得するより、きつく睨むような目でネウに訴える方が遥かに安上がりではなかろうか。クラインが横目でにらむと、ネウはクラインの気持ちを察してくれたのか、笑うのを止めてくれた。
だがその瞬間、ネウは牙が見えるか見えないか、そんな寸前の笑いを浮かべて話に入ってきた。
「あら。案外、化物でもパンを食べるかもしれないわよ?」
「そ、そうでしたね。あなたがこのサルタナの値を上げてくれたのなら、この娘にもいいものを食わせてあげられるのでしょう」
ネウの発言を遮るようにクラインは話を進めた。ネウはすこしだってクラインの思うように動いてはくれない。だからクラインはとっさにネウの話に乗っかって、アルメンダリスに値を上げてもらえるように手を打った。
「はは、違いありません。私も独身です。女性の方との縁はなるべく持っておきたいという下心が隠しきれていませんでしたね。少し、色を付けておきましょう」
「そうしてくれると、助かりますね」
アルメンダリスはクラインの答えにニッコリと微笑むと、分銅をサルタナの袋ではない方の天秤の皿に乗せ、重さを量った。
間もなくして、完全に揺れが収まり、アルメンダリスは分銅とサルタナの袋を天秤の皿から降ろした。
その後に続き、アルメンダリスは少々黄ばみの目立つ紙を懐から取出し、あらかじめテーブルの上に置かれていたペンで簡単な計算式をつづった。
「さあ、計算の方が終わりましたよ」
「して、いかほどの値段で買い取ってくれますか?」
「袋一つが二十個分の木箱で、それがさらに五十三箱ですから……リモーネ銀貨にしておおよそ十八万五千五百枚になります。金貨にして、三百七十一枚です」
よし、なかなかの上出来だ。多少、アルメンダリスが色を付けてくれたおかげでもあるのだろうが、それを抜きにしても当初の予定通り二倍近い儲けだ。丁度、ブレヌフが言っていた通りの金額になる。
だが、問題はそこではなかった。
なぜなら、海賊に占拠されたこの街ではリモーネ銀貨は使えなくなっており、実質、海賊たちが日常で使う、違法通貨の海賊通貨しか使えなくなっている。
海賊通貨とは、リモーネ銀貨やディレマ銀貨といった通常通貨を勝手に鋳潰して鋳造しなおして作った貨幣のことである。一般的に、海賊銀と海賊金がある。
普通、勝手に貨幣を鋳造するのはどこの国に行っても重罪に値する。当たり前のことだが、それはインフレーションをいとも簡単に引き起こしてしまうからだ。
高校剣道キツイです




