第三章㊵
結局のところ、どんな商人も行きつくところは皆同じ。「時間」を欲するのだ。
アルメンダリスは、それを理解していた。昔もクラインはこの話をアルメンダリスから聞いた時にはいや、それは絶対違う、富か、地位や爵位だろう、と首を横に振って否定していたものだが、今になって考えてみると、なるほど、それもそうかと納得して首を縦に触れるようになった。
アルメンダリスは袋をあらかじめテーブルの上に置いておいた真鍮の天秤の左の皿に置いた。
「この街が海賊に占領されてからというものの、葡萄酒の原料であるサルタナは値段がつり上がっていましてね。これは相当高く売れますよ?」
「そうですか。なら、ここに来たかいがありましたね。友人の意見を無視して自分の意見を押し通した結果ですが」
「おや、ご友人の意見は素直に受け取るものですよ? クラインさんの意見を押し通すにしても、もう少し考えて行動なさった方が我々に恩を売るチャンスでしたのに」
もう少しサルタナを持ってくるのが遅かったら値が少し落ちていた、と言うことだろう。
「いや、手にできる儲けは誰にも渡さずに自分でその儲けの十割を懐に収める主義ですから、ディオーネ商会への恩は別の方法で考えるとしましょう」
「確かに、私も同じ考えです。手にできる儲けは全て手に入れる。基本ですからね。けれどもクラインさんは、その儲けを分割しないといけないのでは?」
「分割、ですか?」
アルメンダリスはそう笑いながらサルタナの計量を行っているが、その一方でクラインにそんな質問を投げかけてきた。
すっかりアルメンダリスが軽量を行う真鍮の天秤のわずかな揺れを見るのに夢中になっていたクラインはびくっと体を一瞬震わせ、意識を取り戻した。
その時に、ネウが隣で顔を下に向けたままプルプルと震えていたのは、クラインがあまりにもあどけない顔をしていたからだろう。吹き出すのをこらえるのも必至の様子がわずかに見える口元から窺えた。
そこまで笑うことは無いだろう、とクラインはとっさに口に出しかけたが、アルメンダリスがその瞬間を見極めたように言葉を切った。
「ええ。クラインさんの隣におられる、お嬢さんにですよ」
「確かに、乗組員達と副艦長であるライサには給料を払わねばなりませんが、彼女はどうしてでしょうか」
「人は何も食べずに生きていけるわけがありません。何も食べずに生きていけるのは神様か、化物しかいません」
さしずめ、神様か化物かのくだりはほんの冗談だったのだろうが、クラインにとっては冗談では済まない。
その「お嬢さん」が、紛れもない「化物」の部類に入るのだから。
高校、不安ばかりでつらいです。投稿感覚が、少し伸びるかもしれません。最悪、一週間おきくらいに伸びるかも。
あと、内容について質問や意見、感想などあれば、お願いします。




