第三章㊴
やはり、大商会の一支店を取り持つ長は一介の交易商人が相手にできる存在ではなかったのか。
答えは、否だ。
例え相手がどんなに強大な財力と無数の交易路を独占した王国召し抱えの大商人であっても、その相手と同等の立場で交渉の席を与えられたのなら、全身全霊、全力を持ってより以上の儲けを絞り出すのが商人の性と言うものだ。
こんなところで弱気の立場に回ってしまえば、今後一生商人生活の中で弱気の立場に回らなければならなくなる。勿論、そんなのでは儲けは無いのと同然になるし、商人としても三流以下だ。それに、クラインはこれまでにアルメンダリスより明らかに位の高い、それこそ大富豪とでもいうべき大商人を相手に商談をしたこともある。確かにアルメンダリスもクラインに比べれば農民と貴族くらいに実力も権威も差があるが、勝てない相手ではない。
アルメンダリスはサルタナの詰まった麻袋を手に取り、袋の外から匂いを嗅いだ。サルタナは甘い臭いが特徴的な乾物なので、匂いは大抵、腐ってさえいなければ普遍的な甘い臭いで統一される。なので、このくらい長く交易商人を続けていれば、匂いだけでも品質が分かる、と言うことなのだろうか。心なしかクラインはそれが自分へ向けられている挑発のように思えた。
「さて、では早速ですが勘定を始めましょうか」
「ええ。よろしくお願いします」
普通の商談なら、前置きと勘定の間にはかなりの長い間がある。だが、アルメンダリスはそのじれったさを嫌い、あっさりと済ませるために驚くほど商談が早く終わる。
別にクライン達、一介の交易商人との会話を面倒くさがって早く終わらせようとしているのではない。
理由は、商人たちにとって最も重要なものとは何か、を考えればすぐに出てくる。その問いに、ある者は金、またある者は人脈や権力、変わった答えでは毒と答える者もいるが、すべて違う。
答えは単純明快。それは、時間だ。
時間があれば、商売行動を行うことで、いくらでも富をため込むこともできれば、幅広い人脈を築くこともでき、いくらでも権威を高めることができる。
かつて、当時の西方大陸の都市を全て買収できる程の資産を持った大富豪がいたという。その大富豪は、富と繁栄を極めた先に、不老不死の秘薬を求めて西方中を部下に探し回らせたという。不老不死となれば、永遠に近い時間を手中に収めることができ、無限に富を作ることができると考えたのだ。
だが、結局、不老不死の薬なんか見つかるはずもなく、それの探索に全資産を費やした挙句にその大富豪は破産してしまった。今思えば、吸血鬼にでもなれば不老不死など簡単に手に入れられたのだろうが、信仰心が篤かったのだろうか。真意は分からない。
桜が散ってる中を家まで帰ったら、
頭に花弁が載ってました。




