第三章㊲
実際に設計した本人がアルメンダリスではないことは重々把握しているが、アルメンダリスに少しばかり豪華すぎないかと小言を入れたくなるくらいの豪奢な一室だった。
いつもクラインが商談に使っている個室が、はげかけた漆喰で囲まれた小さな部屋であったので、格下の扱いであったのを思い出すと、普段、平常時にこの部屋を使っている人物は相当な商人だったと容易に想像することができる。
「では、そちらへどうぞ」
アルメンダリスが手を伸ばした先にには、茶色い牛の皮をぴんと張ったソファが置かれていた。アルメンダリスは、そのソファの反対側、テーブルを挟んで向こう側に置かれた同じようなソファに腰かけた。
同じように、クラインもアルメンダリスとテーブルを挟んだ反対側にあるソファの奥に腰かけた。ソファは革製であるために強い弾力があり、クラインは妙な感覚を覚えた。
続いてライサも、クラインの右側に腰を下ろす。
ネウもライサの右隣にゆっくりと腰を下ろしたが、クラインが初めて座る革のソファに驚いているのを見て、ぷ、と小さく吹き出した。それも、クラインとライサにだけ聞こえるように、本当に小さく。本当に嫌な奴だ、と思っていると、それにつられてライサも失礼が無いようにと配慮はしてくれているらしいが、堪えて笑っているのが目に入ってしまった。
「さて、では本日はサルタナ……でしたね? その商談に入りましょうか」
「ええ、お願いします」
クラインは、そんなネウを無視して先程アルメンダリスに見せたサルタナの詰まった袋をテーブルの上に置いた。この袋に詰まっているのは、丁度船に積んだ木箱一つの二十分の一の量に当たる。これはあらかじめ小分けにしておいて計量を簡単にするためであり、木箱一つごとに重さを図っていたら日が暮れてもその作業は終わる気配すら見せないだろう。だからそういった手間を省けるのなら省くというのが常識だ。規定では、木箱の二十分の一の重さが、各国共通の単位として決められている。
セウタでのサフランの取引では、そんな面倒なことはしなかった。その理由には、やはり商会の違いが影響する。同じ商会の支店であれば、細かい計量なんかは全てパスすることができるのだが、他の商会ではそうもいかない。
まず、国王が定めた貿易に関する法律で、「他商会との商取引では全ての積荷の箱から内容物を合計が木箱の重量の二十分の一の量をサンプルとして提出し、店側はそれに異常がないか鑑定・査定する義務がある」と記されているからだ。これを破ってしまえば、例えば見せる分だけは良質のものを選び、後の積み荷は粗悪な品にしたりすると、まずその商人が所属する商会に連帯責任として多額の罰金が科せられ、当事者の商人は積み荷を売却した商会からも、自らが所属する商会からも厄介者として二度と相手にされなくなる。
さらに追い打ちの様に破った本人たちは商会を追い出され、裏切り者の烙印を手の甲に焼き付けられる。商業同盟もディオーネ商会もポルトギア王国領以外にも幅広い勢力を持つ。だから、世界中、何処に居ようと、商売活動をすれば、もしくは目立った行動をすれば確実に捕まる。こんな変哲もない協定を破るだけで商会を追い出されるのだから恐ろしい時代だが、そうでもしなければ商会の経営も困難になってしまうのが現状だ。
だから、たとえ一定の信頼関係を築けたアルメンダリスとクラインでも、この協定の内容を破ることは許されない。
春ですね。今日、駅前に行ったら桜が咲いていました。




