第三章㉜
たった一回の共同取引で作られた仲など、スープに浸してふやけたパンを指でちぎるように脆く崩れていくのは火を見るよりも明らかだ。アルメンダリスは、どんなに仲が良くなっても十割完全に信用できる相手とは言えない。相手も自分と同じ商人である以上、利益追求主義に凝り固まっているのだから。
成功させた銅鉱石の取引にしても、半分はクラインが表で囮となって相手を油断させていたが、もう半分は、アルメンダリスが水面下で相手を半ば騙すような形で手に入れたようなものだったからである。アルメンダリスの頭脳は、クライン程度の商人なんかには及びもしないくらい賢く、舌にはいつでも嘘と言う毒を盛って相手に差し出すことができる。
「おや、珍しい名前ですね。北方出身ですか?」
「え、ええまあ……」
「やはりそうでしたか。この肌の白さですから、そうではないかと思っていたんですよ」
アルメンダリスはネウの名を聞くと、ネウに向けてニッコリと微笑んだ後、その顔を再びクラインに向けた。その笑顔の裏に何を考えているのか。これほど、分かったら、と思ったことは無い。
それにしても、その時に表情を変えなかったのはなかなか上出来と言えた。
「どのようなご関係ですか?」
「ええ……ネウとはセウタの街の宿で出会いましてね。私の叔父の娘です。可愛そうなことに、叔父を亡くしていて。彼女は戦乱の中で消えていった歴史を学習したいと、各国の遺跡や書誌を見て回ろうとしていたらしく、私はそのガイド……とでも言えばいいんでしょうか。まあ、そんな感じですね」
我ながらとっさに上手く誤魔化せた、と自分で自分を褒めてやりたくなったが、ネウはアルメンダリスにいかにもお淑やかさを放つ笑顔を向けながら、視界の端でクラインの革靴を踏みつけていたために、それは断念せざるを得なかった。笑っているのかちょっと怒っているのか。その表情の下にある感情は分からなかった。
しかし、アルメンダリスに言ったことも全部が全部嘘ではない。セウタの宿で出会ったのも、「コンラルト」を捕らえるために諸国の史記やそれに関わる遺跡を旅し始めようとしているのも事実だ。そういう言い訳に近い後付けの理由を頭に描きながら、クラインはちょっとした反撃としてネウが踏みつけている右足をずらした。
その瞬時に、ネウは音が鳴るのではと危惧するほど強く足を踏みつけてきた。ネウの機嫌が悪くなるようなことは何一つとして言っていないはずなのに、だ。
テーブルの下でそんな戦いが繰り広げられているのも知らず、アルメンダリスはネウの偽の目的を知った途端、目を丸くして驚いた。
受験終わりました!
あとは結果を待つだけですね。




