第三章㉙
ネウは一瞬その投げられた銅貨に視線が移ったが、その後いくらか考えるそぶりを見せ、クラインの方に向き直ると、すぐに答えを出した。
「分かったわ。貴方の言うとおりにする」
「感謝する」
ネウがにこやかにほほ笑んで答えてくれたことが、少しだけ憂鬱な気分を払ってくれた。
そして、クライン達がその廃れた路地の前を通り過ぎる頃には、力が強く体格のいい乞食が、銅貨を拾おうと集まった群衆の中から力ずくで銅貨を奪っていった。
しばらく進むと、街の中心部だった場所に出た。町の中心には大抵、大きな聖堂があるのは、やはり人間の信仰心からなのだろう。勿論、ガーボヴェルディにも教会があった。無論、跡地だけだったが。
この町に住む聖職者たちの心の支えであるサルレイ教会……正しくはサン・サルレイ教会というのだが、その教会は既に海賊たちの破壊活動よって元の荘厳な形をとどめておらず、瓦礫の山となっているあたり、例え今教会の手の者にネウの正体がばれても面倒な事には発展しないだろう。
破壊活動を免れた内陸部の中央街道を教会があった方向に向かって歩いて行くと、やがてクラインが目的としていた商館が左側に少しずつ大きくなりながら近づいてきた。このあたりまで来ると、わずかながら人通りも出てきた。
「これからまた商館に入るが、ついてくるか?」
「ご同行します」
「勿論。やっぱり、見たことない場所には行きたくなるものねぇ」
ネウが目を輝かせて言った。大して面白いものがある訳でもないのに、ネウはあたかも祭りに出向く前の子供の様に足取りが軽かった。
中央広場から少し離れたところに位置するディオーネ商会の商館は、外壁の塗装がはがれかけた外壁から、この町ができた当初から建てられていたことを容易に想像できる、大きめの古い酒場といった様な雰囲気を醸し出していた。海賊達も、全てを破壊して回る蛮族ではないのは本当の噂だったらしい。
それにしても、商館が残っているのはありがたかった。もし海賊がここも破壊していれば、寄港して海賊に金を払ったのが無駄になるところだった。
商館の入り口はその大きな建物に似合わず、通常の民家より二回りほど大きい扉が構えてあるだけだった。
「そもそも私は商売自体ほとんど見たことが無かったから、貴方がどういう風に船に積んであったサルタナを売りさばくのか見てみたい、って欲があるわねぇ」
「この前セウタで見ていたのでは?」
「ええ。でもこの前の取引を見る限り、そんなに面白そうじゃなかったわねぇ」
「だったら、来なくてもいいんじゃないのか?」
クラインは交易所の貨物置場から歩いてきた交易所の屈強な男たちに「船から降ろされた荷物を貨物置き場に運んでおいてくれ」と指示する傍ら、ネウに対しそっけない返事を返した。すると、ネウは途端に頬に水をたっぷり詰め込んだ袋のようにふくらませ、クラインを見つめていた紅い瞳を右下に逸らした。
少し機嫌を悪くしてしまったか、と若干クラインは後悔した。されど今気にするべきはネウの機嫌では無く商売の方だ。
受験終わりました!
やったー!
終わっただけですけれど。




