第三章㉗
「……うえ。変な臭いがする……」
「鼻が曲がりそうです」
「吐いてもいいが、路上には吐き散らさないでくれるか」
「そんなことはしないわよ」
ネウはむすっとしてクラインを睨んだ。
ガーボヴェルディ市街に入るなり、市街に広がる、腐敗臭とも錆びた鉄とも説明がつかない、鼻が曲がるような血の臭いが三人を襲った。
酷いのは、それに加えて大砲を放った時に臭う硝煙の臭いがそれに加わっていたことだ。
こんなひどい臭いが少なからず街に充満する程、多くの人が殺されたのだろうか。海賊のむごさは底が知れない。
ただ、手で鼻をつまむほどではあっても、クラインが思わず吐くほどのきつく強烈な臭いではない。ライサも、眉間に若干のしわ寄せてはいるものの、体調が悪そうには見えない。
だが、ネウは必死にクラインに路上に自分の汚物を吐くような醜態をさらすまいと、必死に口を手で押さえて吐くのをこらえていた。顔は青ざめており、どう考えても体調がよさそうではなかった。
「吸血鬼は血を吸う生き物なんだから、血の匂いには慣れているんじゃないのか?」
「血は吸うものであって、まき散らして放置するようなものじゃないわよ。私はね、人間の体から直接とれた、新鮮な血が好きなのよ」
なかなかに吸血鬼らしい意見だ。言われてみればそんな気もしてきた。ネウは少しましになったらしく、表情を少し軽くした。
「大丈夫ですか?」
「……ええ。ありがとう」
ネウはもう臭いに慣れたのか、もうえづくことは無くなり、慣れてきたことに対して満足げに笑みをこぼした。
思えば、子供らしい無邪気な笑顔を見たのは何か月ぶりだろうか。ネウの物を除けば、しばらく前に寄港した港町の劇場で踊っていた役者の作り笑い、それ以来だろか。あまりできのいい演劇とは言えなかったが、子役の娘のその笑顔には心をひかれた。ただ、やはり作り笑いは作り笑いだ。ネウの本物の笑顔には少しも及ばなかった。
崩れた市壁には多くの人々がもたれかかり、誰しもが完全に生気を失っている様子がうかがえた。
焦げた木材や壊された壁が、かつての街のにぎやかさを語る。今ではすべて灰燼に帰しても、その影だけは今も残り続けるとは、悲惨なものだ。
受験なんでペースが遅くなるかもしれません。
でも、質だけは下げないつもりです!




