第三章㉕
クラインは、かつて経済競争に敗れ、別の国に戦争無しで併合されたり、支配下に置かれてしまった国をいくつか知っている。
即ち、ある国が領土を勝ち取るには二通りあるという事だ。一つは、大砲や騎兵、歩兵と言った軍事力に物を言わせて侵略するやり方。もう一つは、経済力に力を入れて内面から相手をむしばみ、勢力下に置くやり方。
戦争で潰せばそれ自体は一瞬で済むが、旧勢力や元々の国の人民との反発は根強く残る。一方、経済で国を勝ち取った場合、長い時間をかけて徐々に勢力を広げていくしかないが、それで困るのはその国を元々統治していた王族と、大商人や貴族だけなので比較的、その後の統治はやりやすいといえる。
クラインはそれを今日、初めて耳にしたネウが瞬時に理解したことをライサの様に素直に褒めたい気持ちになった。
だが、どうも、見た目と中身の年齢が千年も食い違っていると冷静さが売りの商人ですら、もどかしいような、不思議な感覚に陥る。ライサの場合でも、その理解の速さと技術の習得の速さには目を見張るものがあるが、ネウの場合はそれ以上だ。そのネウが特に、吸血鬼なんかであった場合には、だ。
もしネウが、普通に相手の商人として敵対することがあったのなら。どれだけの損失を生む結果になるかを考えるだけでも、ゾッとする。
クラインはどことなくネウに対するわずかな劣等感を覚え、やや不満げに答えた。
「……そうだな」
「何よぉ。不満そうな顔つきで」
「いや、何でもない。済まなかった」
クラインは、ネウにその不安を払拭させようと小さく笑みを向け、二枚の銀貨を財布に戻して革紐をきつく縛った。
こういうのを、恐らく嫉妬とでもいうのだろう。だが、良く考えてみれば、ネウは自分よりもはるかに年上の吸血鬼だった。商業の知識がほとんどないと言ってもよかったネウがこの理解の速さなのだから、クラインは俺が千二百歳も生きればきっとネウ以上に知識を蓄えられるはずだと自分に信じ込ませ、心の中でわずかな優越感を作り出すと、再び前に向かって歩き出した。ネウもクラインとライサの隣でしっかりと着いてきている。
ライサが、独り言のように口を開く。
「さて、今回の交渉も上手くいくのでしょうか」
「上手くいくかどうかは、俺たちの腕と舌先にかかっている」
クラインが自信ありげな口調で答え、自分の舌を見せると、ライサは唇の端を少し引いて、クスリと微笑んだ。
既に陰鬱なるガーボヴェルディ中心街はもう目の前に迫っていた。




