第三章㉔
「えと、いいですか? こちらのリモーネ銀貨は、イスバニアやポルトギアで主に使われています。他の国でも使えないわけではないのですが、価値を低くみられます。流通量が多く、価値が比較的高いのは特にこの二国になりますね。この二国で、ディレマ銀貨を目にすることはまず無いと断言できます」
「じゃあ、こっちの……ディレマ銀貨の方は?」
「ディレマ銀貨は、ここよりもっと北の北方地域……そうですね、簡単に言えば寒い地域で使われています。こちらの地域では、逆にリモーネ銀貨を目にすることがありません。つまり、です」
「自分たちの身近にある貨幣と、全く見たこともない貨幣。どちらが信用に足る、って考えると差が生まれるのは当然ね」
「理解がお早いですね」
ライサがネウの頭の回転の速さを素直に褒め称えると、ネウは調子に乗ってさも得意げに胸を張った。
貨幣は、それ自体が貴金属で出来ているから、その貨幣を発行している国が潰れても価値はまだ保てる。ただ、やはり実物の代用品でしかないのは否めない事実で、貨幣として市場に出回っている以上、それを使う人間の信用で成り立っている。もし、貨幣が民衆からの信用を失えば、それはただの金属程度の価値しか持たないことになり、貨幣としての価値は消えてなくなる。
ネウはライサが二枚の銀貨の説明をしている間、ずっと思索しているように表情を俯けていたが、突如ライサの言葉を遮ってライサが話を括り終えるよりも早く結論を言ってしまった。理解が速すぎるのも、少々考え物なのかもしれない。
クラインはネウとライサの間に割って入って、少し説明を加えた。
「ま、まあ、そういうことだ。使う人間からいかに多くの信用を勝ち取るかが、自国の貨幣を広い範囲に流通させるカギ、ということになる」
「信用が銀貨の価値を決めるのは分かったんだけれど、自分が使ってる貨幣の有効範囲を広めて、何か自分の利益になるようなことでもあるのかしらあ?」
ネウがまた投げかけてきた疑問に、ライサが優しく答える。
「自国で使用されている貨幣……仮にリモーネ銀貨としますが、リモーネ銀貨が多くの人々から信用されるようになると、もともとディレマ銀貨が強かった地域でも、リモーネ銀貨が影響力を持つようになります」
「すると、より信頼性のある貨幣を使うようになって、同じ材質の貨幣でも価値に差が生まれてくる、ってこと?」
「ご名答です」
ライサはにこりと微笑んで答えを導き出したネウをほめた。
「そうなると、もともとディレマ銀貨を使っていた地域でもリモーネ銀貨を使わざるを得ないようになり、リモーネ銀貨を発行している国に経済を掌握されてしまうわけです」
「なるほどねえ。今まで自国で使えていた貨幣が使い物にならなくなるんだもの。相手に従うしかないわね」




