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幻想見聞録  作者: 藤宮周水
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第三章㉒

「……こいつぁ酒か? 葡萄酒のにおいがするが」


「ええ、そんなところです。流石いつもお酒を飲んでいらっしゃる方は違いますね」


「へへ、まあな」


 海賊はそう言って誇らしげに笑った。


 勿論、本気で褒めているわけでは無いのはライサも……恐らくネウもだが、百も承知だ。自分たちはいつも村や町や商船から略奪した酒を浴びる程飲んでいるくせに、その原料が何かすらも知らないとは。媚び諂っているようなクラインの笑みも、実際は心の底から大笑いしたい表情を大幅に抑えた笑みだ。


 海賊程、裏表のない人間も珍しい。勿論、新大陸や西方の沿岸で恐れられる大海賊は嘘と謀略を張り巡らして、その勢力を拡大しようとするが、大半の海賊は仁義だの約束事だのを守り、仲間同士では嘘をつかないことが暗黙の決まりとなっているらしい。


 約束事を守るのは商人も同じだが、海賊が暴力で富を得るのに対し商人は商売で儲ける。


 だから、褒められれば嬉しくなるし、けなされればその腕に物を言わせる。だから、クラインがお世辞を言ったことを微塵も謙遜せずに受け取る。


 突然、ネウが退屈そうに大きく欠伸をかいた。クラインはこれを機にと、先程までの会話を打ち切ってことを進めようと図った。


「まあ、私たちがここを通してもらいたい理由が、それです。勿論、船に積んである荷をここで売りさばくことができれば、貴方達に恩恵をもたらしますし、損は無いと思いますよ? 時間を無駄に喰うわけにはいきませんので、早く通してもらえるとありがたいのですが」


「通してやってもいいんだが、兄ちゃん。通るにはそれなりの金……通行料が必要だろう?」


 海賊はさりげなさを装って金を出せと言ったが、それが少しもさりげない言動に見えないのは、もうその手が金を受け取る手の形になっていたからだろうか。


「レニーア金貨四枚とリモーネ銀貨七十枚……これで十分ですかね?」


「ああ、ここに収めてくれるのはそれで充分なんだがな、街ン中じゃ、海賊通貨しか使えねえから、気を付けてくれよ兄ちゃん」


「ご忠告どうも」


 クラインは、海賊の手に持っていた袋に通行料を納め、海賊に小さく礼を言うと、崩れ落ちた瓦礫の小山の間を通り、ガーボヴェルディ市外へと足を進めた。


「何とか殺されずに通り過ごせましたね」


「じゃあ、予定通り積み荷を降ろしておいておくよう指示しておいてくれ」

「はい。そう言うかと思い、既に済ませておいてあります」


「流石だな」


 ネウが、首をかしげながら不思議そうに口を開いたのはその直後のことだった。考えるに、クラインの財布から一枚くすねたのだろう。だが、そこにはもう突っ込まないことにする。


 ネウはそこそこ綺麗なリモーネ銀貨を日にかざしたり、厚みを調べてみたりしながら、クラインに話しかけてきたのだ。


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