第三章㉑
ガーボヴェルディの城壁は、人の背丈の六倍近い石の城壁が港の税関を除き、外側と内側、空堀を挟む二重壁になっており、一定の間隔で物見やぐらが設けられている等、荘厳たる雰囲気を醸し出している。
ここまで堅牢にする必要があったのは、この島が新大陸や南方大陸まで航海するときの重要な拠点になっており、この港を通じて、ポルトギア本国に金や銀、香辛料や香料がもたらされるからに他ならない。だからこそ、ここを攻めようとする海賊どもに、難攻不落を思わせる造りにしなければならなかったし、そう思わせる造りにした。
が、それももうすでに過去の話になってしまっていた。
今、クライン達の目の前にあるのは無残にも海賊の大砲の砲撃によって大半が無残にも崩れ去った城壁の跡だった。いくら城壁が丈夫で何重に張り巡らされていようと、海からの砲撃では無意味だ。それに加え、酷いことに大砲も配備していないとなると、本当に守る気が有ったのかと言う気にすらなる。これではいくら兵が精鋭でも、相手は海上にいる。いったい、どうやって島を守ろうとしていたのかも気になる。
難攻不落が、聞いて呆れる。確かに、堅牢そうな城壁はまさにそれを思わせるに足るほどの見た目だが、張子の虎宜しく、防衛能力はありそうで、無い。
この城壁が作られたころはまだ大砲なんて大した威力も無い上に飛距離も無く、命中率も悪かったから、良かったのだろうが、時代は止まらないし、逆行もしない。次の手を繰り出し続ける海賊にとってはいい的になっただろう。
今では瓦礫が積まれた小さな丘となっており、いまだに煙がもうもうと空高く上りゆく市街地がそのすぐ先に広がっていることがすぐにわかる。
現に、今クラインとネウの目の前にあるのは木材を適当に組み立てただけの簡素な税関だけだ。恐らく、海賊たちが後から作ったものだろう。
無論、海賊のはびこる街に行く商人はごくごくわずかであるから、クライン達以外にこの税関を通ろうとする他の商人は見かけない。それどころか、船も全く見かけない。ただ二隻、黒い旗を掲げた海賊船を除いては。
クラインは金貨や銀貨の入った袋を手に持ち、ライサとネウを引き連れ、その税関に近づいた。すると、その税関の脇に不格好な剣……いや、鉈、と呼ぶべき武器を握った海賊風の様相をした男が歩み寄り、クラインに話しかけた。
男は酒臭い口をあけ、高圧的な態度で迫った。
「よう兄ちゃん。娘っ子連れて、ここに何しに来た? ンン?」
「ええ、このサルタナを売りにきましてね。どうです、いい香りでしょう?」
クラインはあらかじめ用意しておいたサルタナの小袋の中から数粒を取出し、海賊の手の先に持っていかせた。ライサには、もしもと言う時のために短刀を装備させている。長剣でもよかったが、ライサは普通の剣術より短刀やナイフを使った護身術の方が優れているから、短刀の方が安心できるため、短刀にした。
尤も、ネウを除けば、だが、この中で一番力の強いクラインが装備していてもよかったのだが、流石に船の代表者が帯刀しているのは相手にも失礼というものだ。海賊相手でも、最低限の礼儀は払わねば、要らぬ失態を犯すこととなる。




