第三章⑬
わざわざ商品の売却と購入を異なる交易所で済ますような面倒な手間のかかる方法は、ほとんどしない。ごくまれに別の商会の支店の方が商品が高く売りさばけたり、商品を安く仕入れられたりすることもある。それは大抵、香辛料だか銀だかの生産を独占した商会であるのは決まっているのだが。
ので、そういった独占商品を買い付ける時はその商会の支店を利用するが、大抵の場合、売却と仕入れは同じ商館で行う。それなら面倒も省けるし、何より手間が少ないからだ。
それに加え、この商館の商人のジョアンも、商品を売りたいと言う願望があるのは商人として当たり前なので、他の商会に行きますか? なんて自らの利益を損なうような質問は他商会の密偵でもない限りは、しない。
「そうですね、サルタナでも」
「サルタナですか。勿論、有りますよ」
クラインはあらかじめ次の仕入れとして決めていたサルタナの在庫を確認した。在庫が無ければ、買うに買えないからだ。ジョアンは注文を受けると、クラインが書き終えた羊皮紙を眺め、頷いた。
「では、それを五十三箱」
「五十三箱ですね。わかりました。今すぐに店の奥の倉庫から持ってこさせましょう。えっと、何処の埠頭に泊めてありますか?」
「商会の港ではなく、一般港の、四番埠頭です」
「ええ、わかりました。おい、サルタナを五十三箱だ。通常港の、四番だ」
ジョアンはすぐに、クラインの船の場所を聞くと背後にかまえていた商人に命令した。商人は、ジョアンの声を聞くや否や、足早に交易所を出て行った。
流石、大都市に支店を構えるだけあって一つ一つの行動が素早い。北方の小さな交易所だと店に品物すらおいていないことが多く、その場合は商品が店に入るまで待たなければならない。
その場合、短くて三日、長くて一ヶ月もかかる。最悪だったのは、一か月半待ってようやく届いた商品が全て粗悪な劣悪品だったことだ。それに比べれば、頼めばすぐに倉庫から出てくるのは嬉しい限りである。
「五十三箱、合計で銀貨七万九千五百枚になります」
「サフランの儲けから引いてください」
いちいち貨幣でやり取りしていては、手間がかかる。だから金貨等、実物の貨幣を受け取る前に紙面上であらかじめ儲けから必要な費用を引いた上で、受け取るのだ。
「では、銀貨二万五百枚、金貨では五十枚になりますが、よろしいでしょうか」
「ええ。金貨でお願いします」
残った額としてはあまり良いとは言えない儲けだが、これで手に入れたサルタナを売りさばいた時の儲けを考えれば、上々と言えた。
「では、お手数ですがここに署名を」
ジョアンはさっきサフランを売りさばいた時と同じような羊皮紙を取出し、クラインはそれが合図でもあったかのようにさらさらと慣れた手つきで署名をした。
「ありがとうございます。こちら、残金の金貨五十枚です……おや」
クラインが差し出した羊皮紙に目を通すと、ジョアンは椅子を大きく引き、机の下を覗いた。いったい何を探しているのだろうか。多少の疑問は持ったが、それはクラインも同じように机の下を覗かせるまでにはさせなかった。ただ、ネウは座ったまま、ちらりと机の下を垣間見た。
「おや……すみません! 金貨の入った箱を持ってきていたつもりでいたようです。今すぐ持ってきますので、少々お待ちを……」
少々の焦りを見せながらジョアンはクラインの返答を聞く前に、椅子から立ち上がり、そそくさとカウンターの奥に設けられた扉の中へと入って行った。
「私が思っていたより早く終わりそうね」
「まあ、机上では紙と貨幣のやり取りしかないからな」
「私はもっと、こう、金貨が箱一杯に詰まってて、それを全部持ち帰れるくらいの儲けが出ると思っていたわ」
英検三級受かりました!
これからも宜しくお願いします。




