第三章⑩
「けど、ありがとう。美味しかったわ。今度は、普通に頼む」
「! ……そうしてくれると、助かる」
不意に、ネウがこちらを向いてぺこりと会釈をした。クラインは急に素直になったいきなりのネウの行動に驚きながらも、ネウの対応には、それなりの態度を持って臨まねば、と思い、クラインも素直に応じることにした。
「俺はそこまで馬鹿じゃない。それにな」
「?」
交易所のドアを叩き、ドアを開けると同時にネウの疑問に対し、後ろについてくるネウに言葉をつなげる。
「俺の命は銅貨十二枚で変える程安くない」
そう言い放ち、クラインはすぐにドアから交易所の中へ入った。後ろを向いていなくても、ネウが笑っているのが分かった。当然だろう。奴隷として売られても、銀貨十枚程度の価値はあると自負している。
横には、もうすでに興がそれたかのようにふぅ、とため息をつくライサの姿があった。
ほっとしたようにため息をつきながらもライサは、それがまた少しの楽しみでもあるかのように、小さな笑みを作った。
「変なところで正直なんですね」
「あら、老獪だと言ってほしいわ」
ライサがネウに話しかけると、ネウは笑顔で、貴女より頭が良いから、と付け加えた。自信を天才だと語る阿呆は何万といるが、稀に本物の天才も居ると言う。自分もその一人だと認めろ、という事なのか。
「もう貴方に食事を頼むときに嘘はつかないわ。約束する」
「その約束が、本物であってほしい所だな」
「あら、信じてくれないの?」
ネウはひょいとクラインの視界の端に入ると、意地悪そうに口を三日月の様に開いた。するとすかさず、ライサがネウの顔を優しい表情で見つめて、口を開いた。
「私は信じます。ですから、本当に嘘なんてつかないでくださいね。お腹が空いた時は、私が料理を作りますから」
「じゃあ、お願いするわね」
そういうと、二人は顔を向い合せて笑いあった。その屈託のない二つの笑顔こそ、銀をどれだけ積もうが手に入れられないものではなかろうか。
同じ笑みでも、さっきとはずいぶん違うものだ、とクラインは心の中で思った。




