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幻想見聞録  作者: 藤宮周水
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第三章③

 流石、セウタはポルトギアの重要港だけあって貿易規模の拡大に伴い、新設された東西街道をまたぐ中央市場は巨大で、広い所では百歩も続く道もある。それだけの規模を誇る市場だから、朝の市場は飯を食べに来た一般市民、畑の肥料を買いに来た農民、次の交易品を仕入れにやって来た行商人など、様々な身分と人種の人間があふれかえっていた。

 中でも、採れたての新鮮な野菜や活きの良い魚が出品される朝市はそれこそ人間が狭い池の中でうごめく魚の群れにでもなったかのように大きな一つの渦となって動いており、どんなに頑張ってもゆっくりとしか進めない状況だった。

 普段ならば、こんなただただ人間が多い場所になど、用が無ければ行きもしないのだが、今回行くのにはどうしても避けられない理由があった、はずだ。

 ネウが目的を何も言わないクラインにしびれを切らして、クラインに詰め寄った。

「で、何を買いにこんな埃っぽい所に?」

「…………なんだったか? ライサ」

 自分が分からない問いの答えは、素直に人に訊くに限る。

「えっと、ですね。医療用にレモンバーム、あとアブサンを三瓶、欲を言えば、セロリのリキュールなんかもあればうれしいのですが」

「セロリのリキュールは難しいかもしれないな」

「薬なの」

 ネウはへえ、と小さなため息を漏らし、感心した。

 ライサが求めているのは、これから熱帯の南方大陸を半周するにあたって乗組員の為の医薬品だ。レモンバームは熱帯の地域でよく発生する悪性の感染症にも有効で、心臓を強くし、長い航海で精神的に圧迫された気分を和らげる。さらに、レモンのような爽やかな香りは新鮮なものが手に入りにくい南方への航海において、けだるい気分を晴れやかにしてくれる。

アブサンはアルコール度数の高いニガヨモギなどのハーブ類で作った酒で、弱い幻覚を見せ、体を麻痺させる作用がある。勿論、そのまま気晴らしに飲む以外に、病にかかった船員を元気づけるためや、怪我を負って少々痛みの伴う治療を施したりする場合に飲ます。味は、薬種であるために薬草の苦みがある一方、ウイスキーにも勝る芳醇な香りを出す。クラインはあまり強い酒が飲めないのでいつも薄めて時たま飲んでいるが、ライサは酒に強く、そのままグラスに次いで飲んでいる。三瓶も買うという事は、よほどお気に入りの一品だったという事も窺える。

セロリは航海中に不足しがちな栄養素を補うための野菜で、そのリキュールは長く保存がきくため、あれば手に入れたい品だ。

大抵、航海を含む貿易に必要な食料や常備品は交易所である程度揃ってはいるが、薬類ばかりは置かれていない。何故、航海には必需品と言っていいほどの薬草や薬酒が店に置いていないのかと言うと、薬は高い。それだけの理由だ。勿論、深く理由を言えば薬は元々作られる量が少ないから値段が張り、少しの量で効き目がある。だから、なかなか減らない。高くても次々に無くなっていくロウソクは作れば作るだけ売れていくが、薬はそうはいかない。高いくせにいつも誰かが求めているわけでは無いので採算に合わないとして、交易所では取り扱っておらず、市場などの小売店まで足を運んで仕入れるしかない。


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