第八章①
「いや……まさか本当に、白崖海賊団を壊滅させてしまうとは……すみません、実のところ……いや、本当にやってのけてしまうなんてね……」
朝方の港で、二人の男が何やら話を交わしていた。一人は年季の入った顔に少しの髭を生やし、もう一人は若く、精悍な顔立ちをしている。
「いえ、別に構いませんよ。実際に、こうして成功できたんです。それより、白崖海賊団なんて名前だったんですか。知りませんでしたよ」
「ええ。知っていないのも無理はないです。何せ、海賊は自分たちの自己紹介は苦手ですからね」
朝日に照らされた埠頭で、アルメンダリスが皮肉を言うと、クラインはアルメンダリスにつられて、小さく笑った。確かに、よっぽど新参の海賊団でない限り、自らの海賊団の名前を叫んだりはしない。海軍は確かに相応な力を持った海賊と比べるといくらか戦力に劣るが、何処までも追いかけてくるしつこさは海賊の比ではないからだ。
「今では貴方達はすっかりこの町の英雄ですよ。私も含め、皆、心から感謝しています」
「そんな、私たちはただの商人ですよ。英雄と呼ばれるのは、勇敢な騎士か新天地を発見した探検家にこそふさわしい。私は、どちらかと言えば「胡椒袋」と呼ばれたいですね」
「胡椒袋」と呼ばれるのは胡椒を買えるのは富豪か貴族か大商人だけであることから、金持ちを罵る時に使われる。要は、金持ちになりたいという商人ならではの言い回しだ。
「そんな、謙遜なさらずに。名声が高くて、悪い事は一つもありませんよ」
「謙遜なんかしていませんよ。ただ、富が欲しいと言ったまでです」
「名誉に加え富とは、英雄にしては欲が張りすぎてはいませんか?」
クラインは、「英雄」という言葉を聞き、昨日のことを思い出した。
あの事件の後、クライン達が建物を出ると、アルメンダリス率いる軍隊にまるで国を救った、それこそ「英雄」の様に迎えられた。
これで海賊たちの支配から解放されるのだから、当然の結果と言えよう。だが、英雄、と呼ばれるにはふさわしくないな、とクラインはネウとライサに漏らしてみる。
英雄にしては、いささか貧相すぎる。英雄と呼ばれるべき人間は、勇敢な心を持った、神の加護厚き勇者であるべきだ、そんな考えが頭をよぎる。しかしネウに限っては英雄と褒めたたえられるのがいたく気に入ったらしく、満面の笑みで誇らしげに胸を張っていた。
その様子を見れば、子供らしいの一言に尽きるが、実際、自分たちはそれだけのことをした。本来、ネウの様に胸を張ってもいいのだ。少々、謙遜しすぎたか、と今では少し悔やんでいる。
だが、最もネウが笑顔になったのが、その日の夜の豪華な夕食だったのは言うまでもない。傑作だったのは、小一時間もたたないうちに、ネウがその食事の大部分を平らげ、お替りを要求した時の料理人の顔だった。唖然として、はっと我に返ると、急いで厨房に駆け込んでいった。
街中では英雄だったネウも、食堂では海賊だ。そんなことを言ってライサと笑い合っていると、ネウに油でべとべとになった指で頬をつままれた。




