第七章⑪
クラインはとっさに鉈を持ち直し、ライサを解放すべくウルバーノに向かって鉈を振り下ろす。
元々、クライン自身鉈はほとんど使ったことが無いため、剣で相手を切るのと同じ要領で斜めに切り付けることになるが、問題は無いだろうとクラインは考えていた。
だが、その行動が間違いだった。
いや、もっと正確に言うのなら、鉈で斬りつける、その考え自体が誤りだったのだ。
「効かないな!」
「グアッ……!」
やはり、吸血鬼に銀以外の武器は通じないらしい。
鉈は確実にウルバーノの左肩を仕留めたが、体には傷一つ付けることもできず、石を斧で切ろうとしたかのように跳ね返された。
ウルバーノは黄ばんだ歯を口の中から垣間見せると、クラインに鋭い蹴りを放つ。その蹴りは例えるのなら鉄塊のように重く、それは凄まじい力でクラインの腹部を貫いた。
クラインはそのまま後方に倒れ、腹部を抑えてうめいた。吐いていないのが、内臓が飛び出ていないのが奇跡かと思える程の痛みだった。
直後、目の前で、ライサがそれまで握りしめていたナイフを床に落とした。見れば、腕はだらりと力なく垂れ下がっている。
ウルバーノはそれを確認するとライサの首から手を放し、クラインの方へ向かってくる。ライサは力なく地面に倒れ、ピクリとも動かなくなってしまった。
「あ……く、っそ……」
腹部を貫くような痛みに耐えながらもクラインは顔を上げ、恨みと憎しみを込めた目でウルバーノを睨みつけた。ネウも、ウルバーノに滅多刺しにされ、床に倒れている。そのそばには、床を真っ赤な大量の血液が覆っていた。人間ならば間違いなく死を認めて間違いない出血量だ。
これは流石の吸血鬼でも、もしかしたら……いや、そんなことは考えない方がいいだろう。
俺は、この眼前の悪魔に財産を奪われ、身内を、ライサを奪われ、ネウも殺され、人生も、命さえも、この忌々しい悪魔に奪われるのか。
今にクラインは気づく。
本当の悪魔はネウなんかではない、と。
本当の悪魔と言うのは、眼前に顕現している、この男の事を言うのだと。地獄の悪魔は何万何千といるそうだが、こいつはその中でも相当たちの悪い悪魔であることに疑いは無かった。
ウルバーノは勝利を確信しきった、高飛車な笑みでクラインに十分近づき、ライサやネウよりも重い自分を軽々と四本の指で首を掴んで、高々と持ち上げる。
腹部の痛みに加え、首を絞められる苦しさ。
クラインはその時、何乗にも膨れ上がったあらゆる苦しみの中で、半ば走馬灯に近いものを見ていた。
インフルか風邪か、体調がすぐれません。




