第七章⑨
しかしウルバーノはライサが銀のナイフを投げたとき、ナイフをドロドロに溶かす以前に、銀で出来た刃の部分に振れたはずだ。
ウルバーノがナイフに触れずに溶かしたならいいとして、あの時、確実にウルバーノの手にナイフは触れた。吸血鬼の驚異の回復力に頼っても、傷がつくはずなのだが。
「確かに銀は厄介ね。でも、これくらいの傷なら私はあなたとは違って数秒もたたずに治ってしまうわよ?」
「治る前に、何度も切り付ければいいだけの事です」
ネウはにやりと口を引いて、手の甲に付いた自分の血を舐めた。その様子は、まさしく恐ろしい光景ではあったが、その中に、何処か思わず見とれてしまうような、魅せられてしまうような、妖艶さを兼ね備えた美しさがあった。
「そんな強がり言って。右手が崩れ落ちても知らないわよ?」
「……! こんなもの、貴女を倒しさえすれば関係のないものです」
ウルバーノがナイフを持つ手を右から左に持ち替えた時、それまで見えなかったウルバーノの手のひらが垣間見えた。
ネウにさえすぐ直る僅かな傷ではあるが、確かに傷を負わせるくらいの力を持つ、聖なる金属、銀で造られたナイフだ。ネウをより圧倒的に化物としての生存期間が短いウルバーノにとっては、効果は十分に思えた。
何故なら、ナイフを持ちかえたときに見えた、ナイフが命中した右手はまるで火傷でただれた皮膚の様に手の表皮が赤くめくれ、何とも痛々しげな様子がうかがえたからだ。
触れただけでこの有り様なのだから、斬りつけられた時の痛みと傷は相当なものなのだと容易に想像がつく。
「そうねえ、私を倒せれば、ね。でも言っておくわ」
ネウは小さく息を吸い、自分の指に吹きかけた。すると、まるでロウソクに息を吹きかけたかのようにネウの指先からクラインの拳ほどもある火の玉が現れた。吸血鬼とは、そんな魔法まがいの、いや現に魔法を使用することもできるのか。クラインはただただ、唖然とするばかりだった。
「葬式ならいつでも準備出来るわよ。火葬だけだけれど。海賊なら……水葬が良かったかしら?」
「何を……」
ネウはその大きく膨らみ、頭ほどの大きさになった火の玉をウルバーノに投げつけた。もう、現実とは思えない。
一言で表すのなら、魔法。そう言い表すことでしか形容できない出来事が、今、自分の目の前で起こっている。てっきり魔法と言うものは絵本の中、伝記の中だけの存在と思っていたが、どうも違うらしい。
炎は瞬く間にウルバーノの全身を覆いつくし、燃え盛った。
「あ、熱い! 焼ける!」
見ているだけで、こちらまで痛くなってきそうな光景だ。ウルバーノは必死に熱さから逃れようともがき、やっとのことでウルバーノの全身を覆っていた火炎が消えると、そこには衣服に焦げた跡や破れた跡多くみられるが、体にはほとんど致命傷を負っていない、落ち着いたウルバーノの姿があった。
いったい、何故火の玉を当てられて、無事でいられるのか。理由は明快。ウルバーノも、もはや人間ではないからだ。
最近調子がいいです。




