第七章⑧
「それはどうでしょう、ね!」
ウルバーノが言い終わったと同時に、辺りの書類が一斉に宙に舞い、クラインが瞬きした次の瞬間、ネウの首元には溶けてドロドロになったはずのライサのナイフの刃先が向いていた。
クラインであればもうすぐにでも両手を上げて降参していることだろう。だが、ネウは表情一つ変えず、むしろ笑ってウルバーノの目を見つめた。
「あら、思っていたより速いのね」
「貴女を倒せば、私は本国で貴族になれるんです。この不死の体で、年金をもらって余生を楽に過ごせるのですからね。躍起にもなりますよ」
「寝言は寝て言うものよ。目が覚めているのに言うものではないわ」
ネウがくすくすと笑いだすと、ウルバーノはネウの笑い声があたかも動物の下卑た鳴き声に聞こえたように表情を曇らせ、次にはネウの首に向けたナイフをそのまま力いっぱい押し付け、切り付けた。
「ネウッ!」
「ネウさん!」
思わず、それら一連のやり取りを現認していた二人もネウに向かって叫ぶ。
だが、そのまま宙を飛ぶかと思われたネウの首は首に付いたままで、ネウの首からは血が流れもしなければ、傷もつきはしなかった。ただ一つ変わったのは、ネウがくすくすと笑うのを止めて、牙をむき出しにして静かに、そして不敵に笑うようになった程度か。
「その程度の攻撃しか思いつかないの?」
「吸血鬼の力は、この超人的な力にあります。それにしても、よく今の攻撃に耐えられましたね。常人であれば、首が天井まですっ飛んでいましたよ」
「それはどうも。でもねえ、その程度の攻撃じゃあ……」
ネウがウルバーノに視線を向けたまま、切り付けられた跡を手でさすると、赤く、べっとりとした液体が手に付着した。おかしい。
さっきまでは、何も無かったはずなのに。
ネウが手を首筋から話すと、ウルバーノが切りつけた筋通りに、ぱっくりと血が流れていた。
「あら、銀ね」
「そうですとも。いや、まさかこっちに投げて「くれた」ナイフが銀製だとは思いもしませんでしたよ」
そうだ。吸血鬼であるネウには、どれだけ最新式の、城壁を一撃で破壊する大砲でも、神速を誇る騎馬による突進でも、傷一つつかない。唯一効果があるのは、聖水か、魔を払う力のある銀でできた武器だけだ。
ウルバーノは、それを知ったうえで、本来なら無意味に等しい、「ネウの首を切りつける」という行動に出たのだ。
ただし、この行動には、無意味にならない場合が一つだけある。それは、武器が銀で出来ていた場合だ。ネウの首に血が流れたという事は、ウルバーノは銀のナイフを持って、切り付けたことになる。
新年、明けましておめでとうございます!
遅くなりましたが、今年初の投稿となります。




