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幻想見聞録  作者: 藤宮周水
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番外編 新年の商人達 sideライサ


「どうだ? 旨いか?」


「はい! とても美味しいです!」


 確か、ネウさんが来られる前、つまり昨年の年末は、ドラガーナと二人で過ごしていましたね。


 その年最後の商取引で、北方から仕入れてきた鹿や熊の毛皮が予想相場よりもかなり高値で売却できたために、その年の年末はいつもより豪華な食事をとることができていました。


 私とドラガーナは、王都リシュボアの普段ならここで食べようとも思わないような、ちょっと豪華な二階建ての料理店でその年最後の晩餐をあじわってしました。


 ドラガーナはわざわざ、追加料金のかかる、二階のテラス席を用意してくださりました。


 というのも、それはドラガーナが私に「花火」というものを見せてくれるからなのでした。


 お恥ずかしながら、未開の極北で生まれ育ち、砂漠地帯で奴隷として生きてきた私は、生まれてこれまで「花火」なるものを見ることができなかったのは紛れもない事実です。


 だから、その年最後の日に、リシュボアでは花火を見ることができる、という話を耳にしたとき、私は思わず、一度でいいから「花火」を見てみたい、と控えめな意思表示を行いました。


 私は、その日にリシュボアにいることができれば、程度に考えていたのですが、ドラガーナは、私が花火を見てみたい、と言うなりすぐに航路を変更し、リグーリアへと向かうはずだった船をすぐにリシュボアへ向けて出発してくれました。


 正直に申し上げるなら、その時私は非常に申し訳ないことをしてしまったのではないかと思いました。元々、北方から運んできた毛皮はリグーリアで高く売れる、との見立てだったので、それが正しかったのです。


 ですが、ドラガーナは私に花火を見せてくれるために、その見通しを捨て、損をすることはないけれども、リグーリアよりも利益は下がる、と見込まれていたリシュボアへと進路を変更してくださったのです。


 毛皮がリシュボアでリグーリアよりも高い値段で売れたのは、単なる偶然としか言えません。結果として私がドラガーナや主計長に感謝されることになっても、それは私のおかげなんかではないことはここでしっかりと表明しておきます。

 私はただ、「花火」が見たかっただけですから。


「せっかくライサガ自分から「花火を見たい」なんて言ってくれたんだ。最高のシチュエーションを用意しなければ、と思ってな」


「ですが、こんな豪華な食事、今までしたこともありません」


 私は自分の願望の為に申し訳ないことをしてしまったのではないかと思い、小さくなっていました。


「気にすることはない。俺だって、年の瀬くらい贅沢がしたかったのさ。それに、今年はそれができる十分な余裕もある。・・・・・・ライサのおかげでな」


「いえ、あんなのは・・・・・・私のおかげなんかではありません」


 私は葡萄酒を一口飲み、首を横に振りました。するとドラガーナは、「そうか?」と驚いたような、問いかけるような声をあげ、グラスに注がれた葡萄酒を一口、飲みました。


「俺は、お前のおかげだと思うな」


「なぜですか?」


「何せ、俺は商人ながら、一人の健気な少女の願いを、その自らが得るであろう利益を投げ打って叶えようとした。


 ・・・・・・俺は神様なんて毛ほども信じていないが、因果応報は信じる人間でね。ライサの願いをかなえようとしたことは悪いことではないだろう? だから、結果として良い行いをした俺にも報酬が回ってきた。そう考えている」


「・・・・・・」


 ――私事を捨て、利他行をするのは、何ら間違ったことではない。


 間違ってはいません。その時、私はほろほろと、涙が眼尻からこぼれるような気持ちが、いえ、実際に私の頬を、何か熱いものが流れ落ちていくのを感じていました。


 私が今まで過度な思い過ごしをしていたことと、ドラガーナの優しさに、涙してしまっていたのです。


 たかが花火を見せてくれるだけで涙とは、とそう思われるかもしれませんが、私は、今まで、そんな優しさすらも手に入れることのできなかった人間ですから、それだけドラガーナの言葉は私の心に沁みていたのです。


「ほら、泣くな。せっかく花火を見せてやろうとしているのに、涙でにじんで見えなくなってしまっては勿体ないだろう」


「・・・・・・は、はい。そうです、ね」


 私はハンケチで涙をぬぐい、夜空を見上げました。


「今年はドロガ商会が花火を担当するそうだ。だから・・・・・・、あの教会の尖塔の上くらいに見られると思うぞ。もう少しだ」


「はい」


 ドラガーナが指差す先には、街の中でもとりわけ大きく目立つ、尖塔がそびえたっていました。


「きっと、期待通りの者が見られると思うぞ」


「はい、そのように思っています」


 いつもなら目にかかることも無い、こしょうをふんだんに使った燻製牛肉のステーキを頬張り、リシュボアの寒空を二人で見上げました。






 いつしか、大砲の弾が発射されるような音が空に響くと、次いで私たちの視界にはとてもこの世のものとは思えないような大輪の花が輝き、咲き誇っていました。それはどんな花よりも美しく、どんな光よりも輝いて私の目に移りました。


 気を抜けば、口から魂が抜けてしまうくらいに圧倒して咲き続ける色とりどりの花束のブーケは、ドラガーナが私に贈って下さった、最高のプレゼントのように思えました。



 皆様にも、良い新年が迎えられますように。切に願っております。

良いお年を!

そして、これからもご支援、宜しくお願いします!

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