第七章⑦
「五年前、ですか。丁度、貴方が海賊として再び海を荒らしまわるようになってきた頃ですね」
ウルバーノが海賊として名が知れてきたのも、ここ五年間の話だったという。
五年前、クラインがまだ師匠のもとで働く弟子だったころに、ウルバーノは当時それなりに裕福な商人が数多く住んでいたポルトギア本国の都市を襲った事件を発端に、沿岸の都市や村などを襲撃していったらしい。
そのうちの一つに、このガーボヴェルディが入ってしまった、とアルメンダリスは嘆いていた。
「ええ、そうですとも。あの頃の私は持ち前の持病と、あの忌々しいポルトギアの海軍に負わされた傷で、いつ迫りくるかもわからない死の恐怖に怯えていました。
海賊業もなかなか上手くいかず、一時は自殺まで考えましたよ。本当にね。……そんな時に私の前に現れて下さったのが、コンラルト様だったのですよ」
ウルバーノは何とも希望にあふれた目で昔の思い出話を語った。
「コンラルト様は私に「運命を変えたいか」とお尋ねになり、私は勿論「はい」と答えました。するとコンラルト様は私の首に噛みつき、人間をはるかに超える力を与えてくれました。
初めはいきなり首に噛みつかれて驚きましたがね。しかし、です」
「……あいつの常套手段ね」
「それから私の人生は変わりました。傷は見る見るうちに治っていき、体中から力があふれてきましたし、不死身の肉体を得ました。超人的な怪力で向かうところ敵なしですよ。
大砲なんていりませんね。白兵戦に持ち込んで、それから私が乗り込み、蹂躙する。いやあ、その愉しさといったら!」
ウルバーノが話を続ける度、その感情の高ぶりに比例してウルバーノの身振り手振りは大きくなっていく一方だった。
「それまではいつまでもしつこく追いかけてきた海軍が、逆に私の船を見ると、すぐに逃げていくんですよ!
さしずめ、猫に追われていた鼠が狼に変身した、というところでしょうかねえ。そしてなにより、老いることも無くなりました。
それが何よりうれしかったですよ。……さて」
ウルバーノはそこまで話終えると、先程からウルバーノを特に快く思っていなかったネウに向かって言った。
「貴女は私を殺す。そうでしょう?」
「あら、理解が早いのね。そうよ。私は貴方を殺す。それが私の仕事だから」
「随分と安給料な仕事ですねえ」
「あら、そうかしら? これでも、貴方に勝てばおいしい葡萄酒と鶏肉がお腹いっぱい買ってもらえるのよ。決して、安くはないわ」
ありもしない約束をさも当然の様に口にするネウ。
尤も、葡萄酒と鶏肉はクラインの財布からの出費になる事は明瞭だ。
ウルバーノの、ネウを軽くあしらうような発言を耳にするなり、ネウは一歩前に出て両手を広げてウルバーノを挑発した。
「さあ来なさい。貴方の夢は今日で終わり。ねえ、老けた青二才?」
今日も寒い一日でした。




