第七章⑥
ナイフがウルバーノの手の熱でドロドロになり、床にしたたり落ちたのは十分に理解できる。理解できないのは、何故そんな人間離れした技がウルバーノにできたのかだ。
今に思い出す。アルメンダリスは言っていた。海賊団の頭領は……。
何処か、以前に似たような力を見たことがある。確かあれは……。
「吸血鬼……!」
「ご名答」
ウルバーノは鋭くとがった犬歯を見せつけて、汚く笑った。
クラインがウルバーノが吸血鬼だったとおののいている脇で、不意にネウの表情が変わった。余裕綽々を絵にしたような顔が見る間に崩れ、憤怒の形相が作られていった。
ネウは真紅の瞳を見開かせ、怒りのこもった声で言葉を吐く。
「ウルバーノ、とか言ったわね? 貴方、その能力をどこで手に入れたのかしら?」
「おやおや、そんな恐ろしい顔では、折角の愛らしいお顔が台無しになってしまいますよ? ネウさん」
相も変わらず、聞き手の精神を逆なでするような言葉選びでウルバーノは話を逸らした。
クラインとライサを無視して、二人の知らないところで会話が進んでいく。
「いいから答えなさい? さもないと一瞬のうちに貴方を骨と血と肉の塊にするわよ」
「おお、怖い怖い。そこまで脅されては答えるしかないですね。……ええ。この吸血鬼の能力は、五年ほど前に、あの誰もが知る西方中の英雄、コンラルト様よりいただいたものなんですよ」
コンラルト。
千年間もの間、人間の血液と魂を吸ってきたネウの吸血鬼としての力の大部分を吸い取った、偽装と伝説に彩られた、虚偽の英雄。
その言葉が出ると、ネウはピクリと眉を一瞬だけ上げて、怒りが爆発するように見えた。
だが、クラインの心配をよそに、ネウはすぐに憤怒の形相を解いて、柔らかい笑顔に戻った。ネウにとってコンラルトは絶対に打ち倒すべき敵のはずなのに、どうして笑顔でいられるのだろうか。
「そう、コンラルトが。それは良かった」
「どうしてだ、ネウ?」
「だって」
ネウはくるりとこちらを向き、牙を口の中に僅かに見せて無邪気に笑った。
「だって、コンラルトが生きているってことは、貴方達とまだ一緒に旅ができる、ってことじゃない」
そうだ、思い出した。クラインは、その言葉であの夜に交わした契約を思い起こすことができた。
ネウとの契約期間は、「ネウがコンラルトを倒すまでの間」であった。あの夜の契約締結時はまだコンラルトが生きているとの確証が得られないままに契約を結んでしまい、一時は本当に騙されているのか、とまで疑いもしたが、その疑いも今、ようやく晴れた。
クラインはネウに向かって返しの笑みを作ると、すぐにウルバーノに向き直り、なるべく武力を使わない、即ちネウをウルバーノと戦わせないように話術で降伏を勧めてみようかと計画した。
パソコンが壊れて、かれこれ一か月以上も更新できませんでした。
直ったので、今日からまた再開します!




