第七章⑤
「多くの罪なき人々を殺した? 馬鹿を言っちゃあいけませんよ。それでは戦争で国の為に敵兵を殺す自国の軍人は悪だと言うのですか。理不尽ですねえ。貴方の中ではそれがまかり通るのですか。では、私もこうしましょう」
ウルバーノは許可証を棚の上に置くと、声高らかに言った。
「愚かな貴方達はこの町で悪事を働き、虐殺の限りを尽くして略奪をし尽くした。そこを私の海賊団が捕らえました。そして私はめでたく国王から爵位を授かり、貴方達は絞首台の露と消えるわけです。……実によくできたシナリオでしょう?」
「寝ぼけたこと言ってるんじゃないわよ、老けた青二才風情が」
ネウはそれまで黙って聞いていたのだが、遂に堰を切ったようにウルバーノの全くのでたらめの発言に対して口汚く言い放った。
口調こそいつもと変わらないネウだが、今の言葉には、確かにいつものネウには無い、怒りと言う感情を見ることができた。
「それとも何かしら? 今日はあまりにも日差しが温かいから、つい良い夢でも見ていたのかしら?」
「良い夢はこれから見させてもらうのですよ、お嬢さん」
ウルバーノはネウに「老けた青二才」と言われたのが嫌だったのか、眉を寄せてネウを睨みつけた。
ウルバーノに対しての悪口が「老けた青二才」と言うのも変な話だが、千年の時を超えてもなお若々しく、幼く、可憐さを保っているネウにとって、自分よりはるかに年を取っていないのに自分より老けた顔をしているウルバーノはまさにそうなのだろう。
「人を騙し、奪う事しかできないような貴方が、そんな幸せな生活を思い描くものではないわよ? それに、良い夢なんて、私でさえ今まで一度だって見たことが無いのに、貴方風情が……見られるはず、ないでしょ?」
怒りを含んだ言葉を、ウルバーノに投げかけるネウ。ウルバーノはそれもさらりと受け流し、話し続けた。
「貴方達をここで戦闘不能にさえすれば、私は爵位をもらって宮殿で暮らし、もうあんな磯臭い船の上で働かなくても良くなるのですから。人間は必ず眠ります。どうせなら、豪華なベッドの上で、良い夢を見たいでしょう?」
「私はもう充分悪夢を見ました。貴方の夢の続きは、留置所の堅い床の上で見てもらいましょう」
クラインはライサに向かって小さくうなずき、ナイフを投げるように合図した。
その次の瞬間、ライサの手から放たれたナイフは鋭い軌道を描き、鋭利な刃先がウルバーノの右手目掛けて放たれた。右手は致命傷になりにくいが、相手の行動を封じるには十分効果の見込める部位だ。
ナイフは確実にウルバーノの右手を仕留めるかと思われた。しかし、結果は予想とは大きく異なっていた。
「無駄ですよ」
確かに、ナイフは右手には命中した。けれどもそれは「刺さって」はいなかった。
ウルバーノに刺さったナイフはまるで水銀の様に液体になり、刃先だけでなく柄の部分もドロドロに溶け、右手から落ちていった。ただ一つ水銀とは違う点は、水銀は湯気を立てないのに対し、こちらはぐらぐらと煮え切った釜の熱湯の様に湯気が出ていたというところだろうか。
風邪をひきました。鼻がつらいです。




