第五章⑨
なに、驚きはしない。こっちにも、吸血鬼はいる。しかも、その吸血鬼を狩ることを目的としている吸血鬼だ。何か難しいことになると思っていたが、案外、簡単に事が運ぶかもしれない。
「吸血鬼、ですか」
「はい。ですが、その情報が不確かである上に、もし……信じられない話ですが、本当に首領が吸血鬼だった場合……被害は恐ろしいものになります」
「抗戦はしたんですよね?」
城壁がことごとく破壊されている様を見れば壮絶な戦いが展開されたことが一目でわかるが、相手が吸血鬼だという情報があって、あれほどまでに抗戦するはずがない。隊伍が滅ぶまで戦うほど、アルメンダリスが賢くないわけでは無いのは承知の上なので、どうしてもその部分だけがクラインの思考に引っかかった。
「勿論です。そんな噂をいちいち気にかけていられるほど、我々も暇ではないので。……ですが……未だに信じられません。防壁が粉々に崩されるのは想定の範囲内でした。あれはただ市街地に直接的な砲撃の被害が及ばないようにするためのものですから。その点では、まだ余裕が出来ていました」
確かに、市街地は大砲の被害ではなく、略奪の被害を被った部分が多いように窺えた。その点では防壁は役目を果たしたと言うべきなのだろうが、問題はその後だ。
「悲劇は海賊たちが上陸してきた後に起こりました。先陣を切るのは、あのウルバーノです。我々が奴を発見した瞬間、奴は目にもとまらぬ勢いで我々の方へ向かって来、私達が銃を構えている間に、部下の数十人は奴のすさまじい怪力をもろに受け、帰らぬ存在と成り果てていました」
アルメンダリスはそこで一息つくと、重たい口で、話の続きを話してくれた。
「その時、思い出したのです。「海賊の首領は吸血鬼だ」そんな、風の噂を。でも、私はその噂が本当だったことを認めざるを得ませんでした。私は残りの部下を引き連れ、抵抗を諦めました。幸い、深追いはしてこなかったようでした。……クラインさん」
「はい」
ふと、アルメンダリスはクライン呼びかけた。
「私は、逃げてしまいました。自分達が逃げてきた後ろで、人々の泣き叫ぶ声が追いかけてきました。……私は、国を守る軍人だと言うのに、彼らを守る事が出来なかった」
どれほどの悲痛な記憶が脳裏に焼き付いているのだろうか。アルメンダリスは声の調子を落とし、語ってくれていた。
「自分の不甲斐なさと、いたずらに部下たちを死なせてしまったこと。どうにかしたいが、どうしようもない……そう考えていた時。来て下さったのが」
「私、ですか」
「そうです。クラインさん、貴方が、偶然にも、扉を叩いてくださった。その時、私がどれだけ救われたことか」
なんか月火曜と入試で休みです。嬉しいですね




