第五章⑥
「扉の外には、通路が左右に分かれています。ライサさんとネウさんを助けるなら、左の方に進んでください。お一人だけで脱出するなら、右へ」
「断然左ですね。それと、船と他の乗組員たちはどうなっているか分かりますか?」
「安心してください。誰も、殺されてはいません。ただ、船の甲板下に閉じ込められているだけです」
アルメンダリスは、靴先で地面を二回つついた。今は、アルメンダリスの発する言葉の一つ一つに安心感が載っているかのようにも思えてしまう。
しかし、どうも気になる。何故、アルメンダリスは海賊の占拠している建物の内部構造をしっているのだろうか。仮に、この建物が公共の施設であったとしても、こんな地下牢など、一般人が、少なくともまともな人間が来るようなところではない。
疑問は残るが、とりあえず今はこの後の手順について聞いておかねばならない。
「私は、仮にライサとネウを助けたとして、どうすればいいのでしょうか」
「簡単ですよ。海賊の頭領を捕まえればいいのです」
「そんな簡単にできるでしょうか。こちらはどうやっても三人、向こうは百何十人といるんですよ?」
仮にここから脱出して、無事二人を救出できたとしても、結局またウルバーノに毒を盛られて気絶させられでもしたら、元も子もないのだ。
それに、こっちは剣やナイフと言った近接戦闘用の刃物しかないが、向こうは鉄砲やもしくは弩まで持っているかもしれない。いや、持っているだろう。そんな相手と対峙することになってしまえば、いくらナイフを投げるのが早いライサでも、敵わない。
だが、ネウならば。クラインがそう思いついた矢先、またもアルメンダリスの声が響いた。
「ネウさんがおられるでしょう」
「……まさか。ネウはライサよりも幼い子供ですよ?」
「ハハ、確かにそうですね。子供は、思わぬ時に思わぬ力を発揮するものですからもしかして、と思いまして」
「まさか。子供が活躍するのは童話の中だけですよ」
クラインはアルメンダリスに有無を言わさぬくらいに強く返した。
冷徹に、反論の一切を許さぬように。アルメンダリスの口から、言葉が出なくなるような、低く、鉛のような言葉で。
恐れていたことが、今現実になりつつあるのだ。アルメンダリスがそのことに気付いている――ネウが吸血鬼だという事が他人に分かってしまうと言う、最悪の凶事が。信じたくないが、信じざるを得ない現実が、今目の前にある。
まさか、あのわずかな時間でネウの正体に気付いたとでもいうのか。いや、そんなはずはない。アルメンダリスと話している間、ネウが別に翼を広げていたわけでもないし、牙を見せたわけでもない。
新嘉坡から帰ってきました。疲れたです。




