第五章⑤
「そのリベルト・ウルバーノは紛れもない海賊です。近年、この海域で勢力を伸ばしつつある厄介な海賊ですよ」
クラインは此処でようやく理解した。ブレヌフが言っていた海賊とはまさしくこのウルバーノの事を指すのだと。
「それにしても実名で活動しているとは思いもしませんでしたね……想定外です」
「何故ですか?」
「ならず者の海賊達に名前なんて有って無いようなものですから」
海賊は自分たちの海賊団の名前を変えたり自身の名前を変えたりすることをよくする。これは気まぐれな海賊らしさを出すためのものではなく、れっきとした理由が存在する。
名が知られるというのはつまり、海軍にも名が知られてしまうという事となる。だから、名が知られていなかった頃より活動しづらくなってしまう事を意味する。
例えば、海の向こうの財宝求めて遠洋航海に乗り出し、ようやく島に上陸しようと思ったら、島の防衛隊には既にあの船はこの海賊の船だ、と情報が入っており、海賊は大洋を超えてぼろぼろになった船と疲れ果てた船員で、万全の状態で待機していた海軍を相手にする事さえあるからだ。
だから海賊は様々な名前で活動する。勿論、あまりにも有名になりすぎた海賊は名前だけで相手を降伏させるために変えないことがほとんどだ。しかし、それは当然、追って捕らえようとする軍艦の数も増えることを意味する。だから、一部の海賊が有名になってもなお名を変えないのは、それらを撃退できるだけの自信がある現われ、と言っても過言では無いように思う。
相手が海賊だとさえ知ってさえいれば、あの時ブレヌフにもっとよく海賊についての情報を聞いていれさえすればこんな事態には……。というのは今だから考えられることである。起こってしまったことはどうしようもないし、クラインが失敗してしまったという過去は覆しようがない。
「海賊なんかに騙されてしまうとは、私もまだまだ未熟者の様です」
「クラインさん、そう自分を卑下することはありません。私だって、多くの部下を死なせ、今回のような惨劇を招いてしまった」
アルメンダリスは慰めるように言ってくれるが、クラインが致命的な失敗を犯してしまった事実は事実だ。深く反省しなければならない。
だがもっと重要なのは、その反省から何を学び、次にどうするかだ。失敗から学ばなければ、自分は何度も同じ過ちを繰り返し、そのたびに自らの所業を嘆くことになる。
「さあ、クラインさん。貴方がすべきことは牢獄で自らの行いを嘆くことなんかではない。そうでしょう?」
「……そうですね、ありがとうございます」
クラインは落ちていた鉈を拾い上げ、礼を述べた。
あけましておめでとうございます。一週間投稿が空いてしまいました。
今後とも、宜しくお願いします。




