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天と冥と、人ならば地に楽園を



 では、どうしてと問うのに、この世界を言わないといけない。

 応えられる人はきっといない。でも、まずはこの世界の事を。

 今ある現実は空想ではなく、僕こと水代当麻がいるこの世界がどう成り立ったのかを。


 不条理ではないし、これは当然の事。

 そう呟いた所で意味はないし、認められない。

 けれど、事実として、もう人の世界は歪んで曲がった。


 普通なら有り得ない事が、起きてしまう。

 此処は天と魔と人と、交じり合ってしまった一つの世界。

 もう人の世界は個ではありえない。影響を与える二つの異界の存在があり、それと触れている。


 人がそうであるように、やはり他があればそれに影響されてしまう。傍にあるものに何も感じず、そして変わらなかったら、それは木偶ではないだろうか。

 世界はそうではない。異界は揺れていた。接触している以上、その影響は波となって人の世界を侵略していく。

 常識はとうの昔に壊れ、今はもう違う世と成り立ちになっている。


 僕達人類は、人の世界と理を侵蝕していくモノ達を総じて天魔と呼んだ。

 天使と悪魔。冗談みたいな存在が、現実を崩壊させていく。

 天界と冥界という異界が、弱いものを塗り潰すように、人の世を変えて行った。

 ゲートと呼ばれる異世界同士を結び付ける空間を作り、そこから滲み出るように現れた天魔達。




 例えば天界に住む天使は使徒を作る。そして、人の心を奪う。

 信仰心たる人の精神こそが自分達の糧であり、故に畏怖し畏敬しろ。従えと、声高々に詠うのだ。

 冗談ではない。奇跡の光、一滴を零す事もなく、人として何も感じなくなる程精神を吸い取られ、奴隷にされる。


 白い梅花が彼女の鮮血を浴びた時、守ってくれなかった癖に。

 人を守るという事を知りもせずに。

 それでも自分達は至高で素晴らしいのだと、天使は詠う。人の営みを壊しながら。

 天に叶えて欲しいと祈る事はあった。だが、奇跡は降りない。叶えて欲しいならばと、変わりに切っ先を付き付けてきた天使達。天の光は、支配の為に降り注いだ。



 悪魔もまた、彼らの住む冥界の理で人の世に現れる。

 魂を寄越せと、無明の闇に包まれた冥界から這い上がった。


 魂を糧に動き、人の魂を奪って穢すモノ達。命を奪い、屍となったのなら下僕として動かし、従属させる。

 彼ら、悪魔に光はない。輝きもない。ただ暗闇の中で溜めた渇望と欲望を滾らせ、人の世界を壊していく。

 死ねば皆、その魂は冥界に堕ちる。なら早いか遅いかだけだろうと。


 人の死体から下僕であるヴァニタスを作って嘲笑い、感情など弄べる。死こそ伴として、悪魔は人の世界に踏み入っている。

 守りたいという意志など笑えると。力で捻じ伏せ、心などがらんどうで何処にもないだろうと、死体を弄る悪魔。その暗い愉悦の為に、当麻の大切な唯一無二のヒトの死体を動かして、仮初の魂まで与えた悪魔。

 そんなモノ達に、人は従わなかった。





 従う必要なんてないでしょう。どうして、心も魂も軽んじるモノ達に人が膝を付くのだろうか。

 記憶の中にある煌めき。その欠片、破片。その一つも渡せない。ただ、力を振り翳して人の世界を壊し、日常を変えて行ったもの達に。

 だからこの時代は争いがあった。

 触れあう世界は、天魔の用意したその扉であるゲートの周辺で、侵略が続く。


 けれど人は天魔に伍する――所か、異界の法則を纏う彼らに触れる事も、傷つける事も出来なかった。

 文字通り、奪われて蹂躪される日々が続く数年。無力さは、僕も知っている。

 何も出来ない、その無力さは胸に残っている。それが後悔となって、当麻という個を動かしている。


 だからだろうか。人は無力さを知り、それでも諦めずに抗ったその先に、一筋の光明を得ていた。

 天魔に触れ、害する事の出来る者達が現れる。僕が、そうだったように。

 理由は切っ掛けは人それぞれ。力を願った、或いは生きたいと祈った。或いは偶々かもしれない。僕だと、守りたいという意志が、光となった。

 後に撃退士と呼ばれる、アウルと言う異能を顕現(けんげん)させ纏う者達。


 ただし、それは才能だった。

 誰しも使える訳ではなかった。僕は偶然で、或いは必然で得た。

 尤も、だから出来る事や結べる約束があった。椿という少女を守ると、その約束が。

 アウルに目覚めるのは才能と環境次第。それも覚醒するのは若い少年少女達が圧倒的に多かった。いや、ほぼ青春時代の子供達だけが目覚めて、戦場に立たざるを得ない。そんな世界で、そんな時代。


 それがずっと続いていたからこそ、何時しか争いは止まりつつあった。

 人は無力で抵抗出来ない訳ではないのだから、天魔の進行は緩やかになる。

 確かに動きはあったけれど、撃退士達の活躍によって激動と侵略の時代は過ぎ去り、変わり果てた世界で天と魔と人の睨み合う時が過ぎていた。

 天使や悪魔そのものを倒せた事例は少ない。精々、天使がその力を分け与えた使徒であるシュトラッサーか、死体に仮初の命と力を込めて悪魔が動かすヴァニタスを倒せているという所。それでも先兵であるそれらを倒したという事実は、天魔の動きを鈍らせるには十分だった。


 これがこの世界。急激に変質し、そして、今も変わりゆく世界。

 そして、そんな世界を作った撃退士達を育て続けた学園があった。

 この日本のアウル覚醒者を集め、育て、そして撃退士として各地に送る学園の名を久遠ヶ原学園といった。

 各地から集められる生徒、そしてそれを支えるスタッフ、教師の数は膨大となり、人工島に巨大な学園都市を形成していた。







 今も、それは変わらずある。

 何れ、全てを終わらせる為に。人の世界を、人の世界だと誇る為に。


 僕もやはりそこで撃退士として力を得る為に久遠ヶ原学園と通っている。人との付き合いは、やはり苦手で、つい言葉の悪いものばかり言うけれど。それでも友人であり戦友である人達がいた。離れてなかった。

 けれど、そんな事は関わりなく――少年と少女達は、学び舎たるその島で笑う。

 変わってしまった日常の(うち)でも、変わらぬ青春を。決して、逃したくないのだと。


 そんな中、僕はずっと願うのだろう。

 あの人を守りたいと。傍にいなくても。守り続けたい。

 ずっと祈り続けていた。


 この剣は、闇を払う閃光となりたいと。。

 そうして、日々は続く。変わり果てて、けれど、崩れなかった日々と世界の中で。

 こうして続いた世界の中、鈴の音が僕の様々なものを変えた。或いは、変わった事を知らせていく。

 或いは、音が聞こえない事さえも変わり続けて行く世界の一つだった。



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