四話 王太子
____ど、どうしよう、見知らぬ男性を思い切り押し倒してしまうなんて!
「ごっ、ごめんなさい……! 私の体幹が強すぎるあまりに! お怪我はないですか!?」
「怪我はない……が、一旦俺の上から退いてくれないだろうか……」
「え? あっ、はい!! 私の大胸筋がすみません……!」
日頃の訓練が仇になってしまったわ……!
でも、今はこの男性に構っている暇はない。とにかく、神官たちから……いえ、教会から逃げないと!
……それにしても、どこかで見たことあるような……。いや、妙にイケメンだからそう感じてしまうだけ?
でもこんなイケメンの知り合い、いたかしら……。
「だ、大聖女様ーー!! お待ちください!」
「げっ、もうそこまで追ってきてる! ごめんなさい、私、失礼します!」
いけない、考え事なんてしてる余裕なかった! 後ろから神官の声が聞こえてきて、慌ててそう言ってその場から走り去ろうとする。
……が、私が押し倒してしまった謎のイケメンが____なぜか、私の腕を掴んだのである。
「っ!? な、なんですか!? 今めっちゃ急いでるのわかりません!?」
「そんなことはどうでもいい! 君、今大聖女と呼ばれていなかったか!?」
「呼ばれましたけど!? だから逃げてるんでしょうが!!」
なぜ、このイケメンは私を引き留めてくるのかしら!?
あぁもう、神官がすぐそこまで迫ってきてるっていうのに……!
こうなったら……切り札を使うしかないわ。
「申し訳ございませんが、私、こう見えても公爵令嬢なんです! そんなレディの腕を掴むなんて、王族でもないと許されない____」
「俺が王太子だ!」
「……はへ?」
その次の瞬間、神官が私達……いえ、このイケメンの姿を見て、大きな声で叫んだ。
「ニコラス王太子殿下! 大聖女様の捕獲、誠に感謝申し上げます」
「あぁ。大聖女が現れたというから急いで駆けつけてみれば……とんだじゃじゃ馬娘だな……」
イケメン……いえ、王太子殿下が、はぁ……とため息をつきながら額に手を当てる。
「う、うそぉ……」
私はというと、さっきまでの不敬を思い出して……真っ青になっていた。
王太子殿下が私に告げる。
「そういうわけで、君が大聖女と判定された以上……君は俺の婚約者だ。行動には気をつけるように。あと、廊下は走るな」
「……ご、ごめんなさい……」
がっくりと項垂れる私を見て、王太子殿下は再度ため息をつきながら、ぽつりと呟いた。
「……というか、大胸筋はあんなに柔らかくないだろ……」




